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前橋工科大大学院工学研究科教授  小林 享(前橋市鶴が谷町)  




【略歴】新潟県出身。運輸省港湾技術研究所主任研究官などを経て2001年から現職。工学博士。著書『移ろいの風景論』(土木学会賞)『食文化の風景学』(観光著作賞)等。



食と風景




◎融合し実りある人生に




 ここしばらくの間、専門である景観研究のテーマの一つに食文化の問題を据えている。というのは、総合的な感覚を求める「食」と「景観」の両者は、すこぶる相性が良いからである。たとえば、自然美礼賛の言葉「雪月花」である。移ろう季節の味わいを象徴するこの概念が、「食の文化」と「風景の文化」を知る上で重要なキーワードになっているのはご承知のことと思う。

 さて、それぞれには「雪見の宴」「月見の宴」「花見の宴」というように、眺め(=景観)と食事(=食)との融合がある。脳裏に浮かぶその場の情景には、楽しみと喜びに満ちた酒食が寄り添うのだが、こう言うと、にわかに顔をしかめる者もいる。しかし、酒食とは単に酔って騒ぐような、品位に欠けるものばかりではない。宴を設け風景を愛でるという昔からの生活行事には、居合わせた者同士が、自然をも含めた人間の連帯感、一体感を確認し、共に生きている喜びを味わうという重要な意義が根底にある。

 こうしたいわゆる伝統行事の風流が古典的モデルとなる一方で、新たなモデルも誕生している。さしずめその筆頭が「夜景」といったところであろう。理由はこうである。

 われわれは、山河の自然や都市の人工を、ただ漠然と眺めるのではなく、日常の生活に美しく取り込んできた。借景、見晴らし、パノラマ等々の眺めの言葉がその証拠の一端である。その視覚的体験の対象に夜景が選ばれ食事が結ばれたのである。この、風景と食との相性を物語る食事史上の幸せな出来事をもう少しかみくだいてみよう。つまり、現代のわれわれは、科学技術の支援で力強い照明力や多彩な色の力を得、パノラミックな都市の夜景を日常的に楽しめるまでになった。美しいナイトスケープが視点場とともに見いだされ食と共鳴する、と言いたいのである。そのかいあって、風景と食との融合を楽しむ場所として数々の夜景スポットが、今日ではごく当たり前のように提供されている。こうして、食と景観とを美的に融合し日常生活の中に取り込むということ、社交性を根本とするこのような発見や創意工夫がわれわれの心身を磨き上げ、美意識を高めてきたものと私は思う。

 人の生活の質、ひいては人生とは、その人間がどこで暮らし、何を眺め、何をどう食べてきたのかによって決まる部分がある。だとすれば、実りある人生を受けるためにも、日常の景色と日々の食事に気を配る、言い換えれば手入れの行き届いた景観のなかで暮らし、健康に良いものを料理し、美しく食べることが大切なのである。だからこそ強調するが、そのためにも食育と景観教育との今後に期待を寄せたいのである。






(上毛新聞 2009年8月27日掲載)