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かみつけ民話の会「紙風船」会長   結城 裕子(高崎市金古町)  




【略歴】新潟県出身。桜美林大卒。祖母から昔話を聞いて育った口承の語り部。現在、かみつけ民話の会「紙風船」会長として語りとともに、読み聞かせ活動も行っている。



怖かった祖母の語り




◎広がる豊かな想像世界




 祖母から聞いた100以上もある昔話の中に、子どものころ私が悪さをすると必ず語り聞かされた話があった。「ごうつくばりの食い扶持(ぶち)」という一話である。

 たいへん強欲な男がいた。「あまり強欲だと寿命が縮む」と、おかかに言われ占ってもらうと「一生の食い扶持は丼に米十万杯」と出る。長生きできると安心していると、それからすぐ、いくら食べても腹のへる奇病にかかり、一年もしないうちに食い扶持を食い尽くして死んでしまう。

 この話を聞くたび、幼い私は空腹のうちに死んでいった男の姿を想像して総毛立った。男の苦しむ姿はどんな化け物よりも恐ろしく、悪事をはたらけば、その時は何もなくても、必ず思いもかけないしっぺ返しを食らうものだとおびえた。今思えば、私には祖母にしかられたり小言を言われた記憶がない。祖母はしかる代わりに絶妙なタイミングでその時々に応じた話をしてくれたように思う。

 祖母の語ってくれた昔話の多くは、説教くさいことを言ったり教訓めいた言葉を使わなくても、淡々と語るだけで、人として生きるためのルールや道徳を幼い私に教えてくれた。だからこそ、あのころの私はあんなにも夢中になって祖母の話を聞き、祖母の思いを感じとることができたのだろう。

 私の語りを聞いてくれる今の子どもたちも、怖い話は大好きである。特に幽霊や化け物の登場する本格的な怪談、中でも約束やタブーを破ってしまう話はリクエストが多い。耳をふさぎ震えながら聞いていたのに、終わった途端「また聞かせて」と言う子もいる。そんな姿を見ていると、遠い昔の自分を思い出す。

 語りの怪談はとても怖いと、子どもたちは言う。それは、細かい説明がない分だけ、ひとりひとりの心のスクリーンにその人の一番怖いと思う幽霊や化け物が映し出されるからではないだろうか。

 前に「さとり」という話に出てくる一つ目の化け物の想像図を描いたことがある。私は長い黒髪の女で、顔の真ん中に大きな一つ目のある不気味な化け物をさとりとして描いた。私のこの絵を見て、その場がざわついた。「私の想像していたさとりは一つ目の鬼です」「私は毛むくじゃらの化け物だと思ってた」等々、たくさんのさとりが出てきたのである。

 昔話の語りには細かい描写がほとんどない。その分だけ聞き手は自分の心の中で思い思いの想像を巡らすことができる。「世界一美しいお姫様」も、100人の聞き手がいれば100通りのお姫様が現れるのだ。語りを聞くということは、そんな豊かな自分だけの想像世界に身を置くことではないだろうか。





(上毛新聞 2009年9月9日掲載)