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邑楽町教育委員長   加藤 一枝(邑楽町光善寺)  




【略歴】群馬大教育学部卒。教員として片品南小などに勤め、結婚後退職。病院の理事をしながら自宅で茶道教室「令月庵」を主宰。2003年から邑楽町教育委員長。


邑の映画会に向けて



◎思いを重ねて感動を



 私たちは今、目まぐるしい社会の動きの中で、生活の匂(にお)いや、自然への心のあり様、他者への思いなど、自身の外にあるものとのかかわりを、どれほど意識して生きているでしょうか。

 教育や文化は、まず、豊かな感覚を育(はぐく)むことが大切で、不思議を感じる、学ぶことの原点はここにあると思います。学ぶその過程で心豊かに多様な思考や不思議な思いが生まれるから、それをひもとくように、「なぜ」を確かめる。本を読む、絵を見る、映画を見る…。ときに、風で震える木々の中に、すずなりの星に、何万光年前からの銀河系宇宙のひろがりを想(おも)います。私たちがこの無限の宇宙の中で生きてこられたのは、その自然の偉大な存在を受け入れてきたからです。向き合う他者を思い、多様であることを認め合い、かかわり合って、生きてきたからなのです。

 さて、昨年11月3日の「邑(むら)の映画会」から早いもので10カ月がたちました。この間、第2回を子どもも大人も楽しめるようにと、皆で世界の映画を見て、計画してきました。それは、他者との豊かなかかわりの時間であり、また、自分自身に向き合う時間でもありました。

 出合った作品はたくさんありましたが、最後に「これ」と、映画会実行委員会が選んだのは「ピロスマニ」。グルジアのゲオルギー・シェンゲラーヤ監督による作品でした。ニコ・ピロスマニは何ものにも縛られない自由な生き方を通した放浪の画家。この映画はニコの絵のように、今まで見慣れてきたものと、何かが少し違っています。こんなにも心やさしくなれる映画はなかなかありません。

 家族で真剣に見る。あるときは子どもが横で、涙しながら見ているお父さんやお母さんを見る。映画会は、映画だけを見るのではないのですね。監督が映画を“描く”、それを伝える人が上映を“描く”。そして見る人が、心に思いを“描く”のです。この三者が相まって初めて会場は熱気にあふれ、すばらしい作品を見た感動がいつまでも心を震わせるのです。そして見た後に、皆で思いを伝え合う、なんとも、うれしい時間がひろがるのです。

 今年も邑の映画会が11月3日午後0時半から、邑楽町中野小学校体育館で行われます。「ピロスマニ」の前に、アニメーション映画「モチモチの木」「飲みすぎた一杯」「話の話」を上映し、邑の映画会顧問の小栗康平監督による講演「映画のうそと本当」があります。

 私たちは、いつの時代も、人と人とが心よせ合い、力を出し合い、悩み、喜びながら、集まって、未来を生きる人間を育て、自らも育つ、この歴史をめんめんと紡いできたのです。思う心をしまい込まないで、豊かな心を拓(ひら)きましょう。






(上毛新聞 2009年9月14日掲載)