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染色美術家   今井 ひさ子(前橋市総社町)  




【略歴】兵庫大短期大学部デザイン科卒、同大染色研究課程修了。県美術会理事、光風会評議員。上毛芸術奨励賞、県美術展山崎記念特別賞など受賞。県立女子大非常勤講師。



88歳の造形作家




◎歴史の真実語る「かたち」



 今年の夏も終戦の日に全国戦没者追悼式が執り行われ、テレビ各局は朝から戦没者の冥福を祈る人々の姿を放映していました。ちょうど、同時期に開催されたある造形作家の個展「鎮魂のニューギニア」は、大きな反響を呼んだ展覧会でした。

 作者は激戦地のニューギニアで約2年間を過ごし、所属した分隊の40人中、瀕死(ひんし)の重傷を負いながらも生きて帰国できた二人のうちの一人でした。25歳で日本に戻った後、造形作家の道を志し、「鎮魂」をテーマに64年間、88歳の今日に至るまでその思いは薄れることなく、戦没者への鎮魂と平和の祈りを込めて創作活動を続けています。

 ライフワークとした僚友に対する「鎮魂」の思いは、戦争を知らない次世代の若者に「戦争」の悲惨さ・愚かしさと「平和」の大切さを伝えること、訴え続ける務めこそ、自分のなすべき使命だという思いに結実していきました。

 負傷し犠牲となったのは人間だけではありませんでした。中国大陸からともにやってきた馬たちは地獄のような高温と湿気の中で息もできずに、次々と倒れていきます。じっと横たわる馬の目が人間を見つめています。鉄を鍛えあげ、古木をナタで形成し、組み立てられた「馬」という作品。表面を錆(さび)付けした鉄の塊で作られた馬の目が、しい~んとした悲しみをたたえています。

 「死の島」で繰り広げられる悲惨極まりない情景の中で、出現するカラスやさえずり集まる小鳥たち、山猫などの小さな動物たちにも作者の目は向けられ、動物たちの生きる姿に自分を重ね合わせます。

 「鎮魂」を忘れて自分の作品を作る意義などあり得ないと思い続ける作者は、金属を叩(たた)いて溶接し、石を彫り、木を削り、土を焼き、布で巻き、無言の時間を重ねていきます。やがて思いは「かたち」となり、「かたち」は重く鋭い光を放ち、真っすぐに観(み)る者の心に迫ってきます。

 今、私たちは平和な日々を過ごしていますが、世界に目を向けると、現在も戦火の中に置かれ、かつての日本の若者のように、自分の意思で自らの人生を選ぶことができない人々がいることを知らなければなりません。平和を語るときに、過去の歴史の真実を知りたいものです。この真実を語る作品、渾身(こんしん)の思いが込められた35点の現代彫刻は訪れた人々のこころに深いメッセージを送っていました。

 激しくも静かに語る彫刻群に出会った日の帰り道、創作活動をする者の一人として、普遍的なもの、過去・現在・未来と限りなく続く命のメッセージを、作品に託していきたいと思いました。






(上毛新聞 2009年9月19日掲載)