視点 オピニオン21
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ピアニスト   澤田 まゆみ(高崎市箕郷町)  




【略歴】東京芸大、ドイツ国立リューベック音大卒。東京芸大大学院修了。2006年から新島学園短大専任講師。07年、上毛芸術文化賞受賞。ぐんま日独協会、群馬音楽協会理事。




出会い、体験する音楽




◎共に生きる大切な財産



 日本でかつて洋琴と呼ばれていたように、ピアノは西洋の楽器ですが、日本人なのにどうしてピアノを弾くのか、と海外で何度か尋ねられたことがあります。その折には、絶句して戸惑ったこと以外にはほとんど記憶がありません。

 ピアノは白と黒の合わせて88の鍵盤からなり、幼いころはその白黒の色の鮮やかさ、揃(そろ)って並んでいる鍵盤の形が面白くて、すべての鍵盤を使って音を鳴らしてみたいなどとよく思ったものです。

 ドイツ国内でのあるコンサートの後、ずっと物珍しそうに私の演奏を聴いていた一人のドイツ人から、アンコールに何か日本の曲を弾いて、とリクエストされたことがありました。一瞬、ピアノで日本の音楽? とたじろぎましたが、しばらく考えた後、意を決して演奏した曲は、私の母校の高校校歌と尾崎豊の「I LOVE YOU」でした。

 その後すぐ、次回に備えて日本人によるピアノ作品や、日本の音楽として海外で演奏できる曲の検討をしましたが、こういった話は留学や海外生活をした人からよく聞く話です。しかし、このとき気づいたことは、国単位ではなく地域的、または個人的な体験や音楽であっても、それが時に国際的なものになり得る、ということです。

 作曲家、武満徹はピアノの減衰していく音の中に自らの音楽観や日本の美意識を見いだしました。ピアノの音も音楽も、確かに一瞬で消えていきます。しかし、消えてなくならずに私たちと共に生き、心の中に残っている音楽は皆さんの中にもきっとたくさんあることでしょう。それはある流行歌かもしれませんし、どなたか親しい人が口ずさんでいた音楽かもしれません。

 また、他の人が知りえない音楽、そこに住んで生活していなくては体験しえない、校歌や地域特有の歌、お祭りの音楽にも目を向けてみると、それらを知り、体験することは私たちがそこに生きた証しでもあり、私たちのアイデンティティーの一部を形成していることに気づきます。いつかその音楽たちは何かの折に、さまざまな状況や思い出とともに私たちを支えてくれることでしょう。それらは私たちと共に生きる大切な財産です。

 もっと大きくとらえると、私たちが触れることのできる音楽は、私たちが今生きているからこそ体験できるものといえます。

 さまざまな楽器や、歌など、今、私たちが出会い、体験することのできる音楽を大切にして、それらの音楽とともに力強く生きていきませんか?






(上毛新聞 2009年9月20日掲載)