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NPO法人国際比較文化研究所所長   太田 敬雄(安中市鷺宮)  




【略歴】米国の神学校で宗教学修士号を取得。弘前大、新島女子短大などでの教職を経て、9年前にNPO法人国際比較文化研究所を設立、同所長となる。





教育に求められるもの




◎プラスに導く姿勢で



 「教育」の微妙な点は、バランスのとり方にある。教えることと、学ばせることのバランス。遊ばせることと、勉強させることのバランス。保護することと、冒険させることのバランス。抱きしめてやることと、厳しくしかることのバランス。

 親も教師も教育学者も、それぞれのバランス感覚があり、それが正しいと信じていることが多い。人は、自分が受けてきた教育をベースに、教育を考えがちなのである。

 今日の教育界の全体的な傾向を私なりの視点でとらえると、教えること、勉強させること、保護すること、失敗させないことに重点が置かれすぎる傾向があるように見える。さらには「こうでなければならない」が多すぎるのも教育の特徴だろう。

 そんな傾向の中で忘れ去られがちなのが、本人の自主性であり、生きる力であり、仲間と共に生きる経験ではないだろうか。

 8月に大学生を主体とした日本人グループと、インドネシアの大学生が共に過ごす1週間ほどの交流プログラムを実施した。

 目的地のマラン市に着いて3日目にひとりの学生が高熱を出して倒れた。その後数日、彼女は医師の指示により宿舎のベッドで過ごすことになった。

 「何もできなくてかわいそうに」と思ったが、彼女は帰国前の送別会で意外にも「来年、また来ます」と宣言した。それは彼女が病気のせいで何も得られなかったのではなく、誰よりも貴重な体験をしたとの確信を表明した言葉だった。

 ここに、私は人の成長と教育にかかわるふたつの大事な要素を見る。

 ひとつは、どんな体験もプラスにもマイナスにもなりうるという認識の重要さ。彼女の場合は、予定されたプログラムには半分以上参加できなかった。決して安くない経費を払いながら。そう考えると大きなマイナスだ。

 しかし、彼女は他の誰も味わうことのできないかたちで、インドネシアの学生たちの温かさを体験してきた。パートナーの学生はひたすら彼女と共に過ごし、他の学生たちも入れ代わり立ち代わり、訪れては励まし、皆で世話をしてくれた。「多文化交流」を目的としたプログラムで、彼女こそ最も密な多文化交流をしてきたとも言えるのである。

 ふたつめの大事な要素は、与えられた状況を悲観的に見たり、批判的に見るのではなく、前向きに、肯定的に見る柔軟性の育成だろう。その姿勢は、教科書を離れ、「こうあるべきだ」的教育を離れたところで培われる。同じ体験が人によってプラスにもマイナスにもなり得る。それをプラスに導くことこそが、教育に携わる者の最大の責務ではないだろうか。






(上毛新聞 2009年9月21日掲載)