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NPO国際エコヘルス研究会理事長   鈴木 庄亮(渋川市北橘町)  




【略歴】群馬大医学部卒、東京大大学院修了。東京大医学部助教授、群馬大医学部教授(公衆衛生学、生態学)、群馬産業保健推進センター所長など歴任。群馬大名誉教授。





人類の存続のために




◎早急に温暖化対策を



 お彼岸やお盆でご先祖様に思いをはせ、供養をするのは良いことである。

 ご先祖様からさらにさかのぼれば、弥生以前の大陸からの渡来人、弥生人、縄文人、欧州のクロマニョン人がいる。現生人類は、約20万年前にアフリカで誕生した新人の子孫といわれる。新人の前は、われわれと等しい脳容積を持った30万年前からの心根の優しい旧人(ネアンデルタール人)、道具と火の利用で生息地を初めてアフリカ以外の大陸に拡大した100万年前からの直立原人たち、その前は脳容積が今の人類の3分の1しかないアフリカの多くの猿人たちにまでさかのぼる。猿人は650万年前にサルから分かれて草原で直立歩行をして生活した最古のヒトである。

 ヒトの誕生以来、生態系の中で狩猟採集生活を続けて25万世代を重ねる間に、人類は遺伝子の変異と文化の伝承によって進化した。特に1万年前からの農耕牧畜の導入は大革命であった。安定した食料供給によって人口はどこでも100倍に増えた。日本では縄文時代の30万人から、稲作の導入で成熟農耕社会末期の江戸時代までに人口3000万と100倍に増えた。さらに産業革命で科学技術と化石燃料の利用で、国と国で戦争をしながらも物資の大量生産と高速運輸通信で豊かな社会を享受するようになった。これらは皆、先祖たちの気が遠くなるほど長い営みの積み重ねのおかげである。

 1960年代には日本は高度経済成長を遂げたが、欧州先進国は成熟期にあり、エコロジー運動が芽生えた。72年、民間組織ローマクラブから「成長の限界」が公刊された。このままでいくと環境汚染・温暖化と資源の枯渇で人間社会は破局に至るというシナリオを学者グループが科学的に予測してみせた。62年、生物学者、R・カーソン女史は「沈黙の春」を出版し、農薬の乱用で昆虫・魚介類・雑草が死に、春になっても小鳥のさえずりが聞こえなくなったと警告を発した。

 このころ筆者は医学生で、340ppmが自然の大気中の濃度であると教えられた。しかし気象庁発表によると08年に日本のCO2濃度は観測定点で歴史上最高の388・5ppmを記録した。最近の10年では年1・9ppmずつ上昇中。対策なしでは今後これ以上に増え続ける。

 地球温暖化によって、洪水・渇水・巨大台風などの異常気象、海水面の上昇、農産物・魚介類の収量減退、地域的に食糧と水の不足、森林・動植物相の変化、感染症・熱中症の多発など悲惨な事態を招くことが憂慮されている。地球温暖化対策は国を超えた人類共通の課題である。永年かけて築かれた人類の営みを無駄にしてならない。対策は早いほど良い。確かに「明日のエコ」では遅すぎる。





(上毛新聞 2009年9月22日掲載)