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沖縄料理研究家   高山 厚子(東京都練馬区)  




【略歴】沖縄県出身。琉球大卒。都内の小学校長を経て現在、三鷹市教委非常勤。料理をテーマに執筆、講演。館林市とも交流。著書は『緑のカーテンの恵みを食べよう』。


尊い親子の絆



◎人であることの証し



 「宅急便です」と、見知らぬ青森の方から荷物が届いた。問い合わせると、「娘に部屋をお世話していただいて…おかげさまで元気で仕事をしているそうです」。電話の向こうの丁寧なお礼の言葉に、故郷名護市の旧友を紹介したことを思い出した。お会いしたことはないし、全く知らない人であったのだが。

 事情が分かり、届いた荷物をほどくと、つやつやの真っ赤な林檎(りんご)が顔を出し、甘酸っぱい香りが部屋中に漂った。

 中に私あての手紙が入っており、封を開けると白い便せんに娘を世話したお礼の言葉とともに、「この林檎は、わが家で一番早く収穫したものです。どうぞお召し上がりください」と心のこもった字でご両親の名前が連名で書かれていた。

 丹精して育てた一番の収穫物をお礼にと送ってくださったのだった。ご両親の子を思う心根に触れたようで、なんだか涙が出てきた。ご両親はまだ沖縄にいらしたことはないそうで、遠いところと思っていらっしゃるようでした。確かに地図の上でははるかな地だ。遠い異郷なのでしょう。遠く離れた娘にもこの親心きっと通じているはず。いいえ、こういうご両親だからこそ、娘は一生懸命働いているはずと思わずにいられませんでした。

 私にも同じ年ごろの娘がいますが、このように目に見えない形で心の贈り物を娘のためにしたことがあるだろうか。家族の絆(きずな)、親の子への愛情表現を忘れていた自分を恥じ入ってしまいました。

 銀(しろがね)も 金(くがね)も玉も何せむに まされる宝 子にしかめやも(山上憶良)

 父母が 頭掻(かしらか)き撫(な)で幸(さ)くあれて 言ひし言葉ぜ忘れかねつる(防人の歌)

 わが故郷の童謡にも「ホウセンカの花は、爪(つめ)に染めて遊ぼう。でも、親の教えは心に染めよう。夜空に輝く無数の星は数えようと思えば数えられる。しかし、親の教えは数え切れないほどたくさんある。夜、航海する船は北斗七星を目当てに進む、でも私の親は私を目当てに生きている」と歌われている。

 古く万葉集にも歌われた親の子への思い、遠く異郷の地で親を思う防人、故郷の童謡に、人が人であることの証しが込められている。また、そうでなければ、人としての価値がないのだとつくづく思うのです。

 親が子の、子が親の命を奪うという無残な事件が起こる今日、あらためて人の命の尊さを先人の思いに負けず叫ばなければと思います。歩きながらでも携帯電話で地球の裏側や宇宙のことを瞬時に知ることができる時代ですが、どんな時代になろうと私たちは「命を育(はぐく)む心を宿していること」を忘れないようにしたいものです。自然豊かで人情味あふれる群馬に心寄せて。






(上毛新聞 2009年9月27日掲載)