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弁護士   足立 進(前橋市下小出町)  




【略歴】前橋市出身。一橋大法学部卒。1989年、弁護士開業。2001年県弁護士会副会長。04年から民間の犯罪被害者支援団体「NPO法人すてっぷぐんま」代表。


被害者の苦しみ



◎ニーズに即した支援を



 仕事柄、社会的にさまざまな立場の方々と接する機会があったが、分かっているつもりで分かっていなかったのがDV被害や犯罪被害等の被害者問題であった。

 DV被害は古くて新しい問題である。最近でこそDV問題に対する認識が高まり、警察等の対応もなされている。しかし、DV被害者の多くは、暴力や虐待を受けても、それを声に出せず忍従している実態がある。そして、暴力を受けているうちに人間としての自尊心が失われ、暴力による支配の中に取り込まれてしまう場合も多々ある。他人に相談できると解決への糸口をつかめる場合があるが、それができるのは一部の方であり、多くの方は相談もできずにいることを知らずにいた。

 犯罪被害者問題の深刻さも同一である。被害に遭っても、生じた心や生活のさまざまな苦しみを抑圧し、場合によっては近隣や報道、司法からの2次被害を受けながら、外見上は他人に気取られないよう日々の生活を送っている方が大勢いらっしゃる。

 しかし、時間がたてば忘れられるような単純なものでない。中には、加害者に損害賠償を求め、弁護士を頼って裁判を行う方もいる。それにより金銭的な賠償が得られても、それを回復とすることはできない。そうした被害者の心情を知らずにいたし、弁護士が2次被害を招いていることにも無知であった。

 DV被害であれ、犯罪被害であれ、それを受けた被害者にはさまざまな影響を受け、当人だけでなく周囲にも影響を及ぼす場合がある。突然の被害であれば、静かな水面に礫つぶてを投げ込まれたときのように、大きな水しぶきが上がり、それが次々と波紋を招きながら全体に広がる。そうした変化は時間をかけて生じる場合が多いので、点での支援では事足りず、被害者の状況に応じた長期的な支援が必要となる。また、被害者の状況や置かれた環境は一変し、それは突然深い森の中に放り込まれたようで、戸惑いたじろぐ。今、自分がどこにいて、どちらに歩けばこの森を抜けられるのか、被害者が体力、気力を失う前に支援に通じたガイドのサポートが必要とされる。

 こうした支援が有効に機能するには、DV被害であれば、自立、生活再建のために有益な社会資源との連携が、犯罪被害であれば被害者情報を早期かつ的確に捜査機関から得るための連携が必要となるが、民間支援の強みは、こうした連携を生かし被害者のニーズに即した支援を長期間にわたって継続的に提供できる点にある。被害者をたらい回しにしないワンストップショップの支援を、民間支援団体がコーディネートすることで実現させ得るのである。





(上毛新聞 2009年9月29日掲載)