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キモビッグ代表   田中 美晴(大泉町朝日)  




【略歴】青森県東北町出身。2000年にブラジルのリオデジャネイロに留学。06年から大泉町に住み、ブラジル人との交流事業を行う「キモビッグ」を立ち上げる。




世界を変えるきっかけ



◎1日1回あいさつを




 ブラジル人と日本人をつなぐ「キモビッグ」というヘンテコな名前の団体を大泉町で立ち上げて4年。ブラジル料理教室、ポルトガル語講座、日本拳法格闘技教室、ブラジルグルメツアー、イベントのボランティア参加などさまざまなことをやってきた。キモビッグのスローガンは「いちにちいっかいボンヂーア」である。ボンヂーアとはポルトガル語で「おはよう」という意味。1日1回あいさつしよう、というごく普通の標語だ。

 「ブラジル人はいくら注意してもごみの分別をしない」。大泉町の人の声だ。ブラジルという国にはごみを分別する習慣がない。最近は環境問題への関心が高まり、都市部では分別運動も始まった。けれど少なくとも彼らが10年も前に日本に出稼ぎに来た時には、分別など話題にものぼらなかったであろう。

 私が住んでいたブラジルのコパカバーナ地区では、自宅のキッチンにあるダストボックスに生ごみでもビール瓶でも放り投げればいいだけだった。ごみを捨てる人が分別をしないのは、分別業者などの雇用を確保するためだという。

 以前、日本に住む友人のブラジル人にこんな話をされた。「先日、ごみ分別をするよう指導をされた。次の日の朝、生まれて初めてごみの分別をした。なんだかうれしい気分でごみ収集所へ向かった。だけど、そこで立ち話をしていた日本人たちが、僕に気付いた途端、あいさつもしないで逃げるようにいなくなった。とても悲しかった」と。

 皆さんに問いたい。私たちはなぜごみの分別をしているのだろう。社会的に、地域で決められていることであり、幼いころから地域に根付いたルールを学んだから自然にできるのだ。

 そう考えると、外国籍の人たちに「決まりごとを守りなさい」と言っても、その人たちに隣人がいなければ、地域、社会にかかわっている実感がなければ、簡単な最低限のモラルさえも、自分の生活と結びつけることは難しいのではないだろうか。

 日本に住んでいるという意識は、誰かと触れ合って初めて芽生えるものではないのだろうか。ごみ収集所で外国籍の友人を見て逃げた日本人たちが、もし彼にあいさつをしてくれたなら、彼は地域を感じられただろう。もちろん、日本人同士だって隣人にあいさつをすることが少ない世の中だ。その中で、外国籍の人とあいさつなんて簡単にできるとは思えない。それでも私はあきらめられない。すべては、社会との、地域とのつながりなのだ。

 だからこそ、私は「いちにちいっかいボンヂーア」を一生のスローガンとしてこれからも生きていく。朝日がのぼる今日も明日も、小さなきっかけが世界を変えていくのだ。






(上毛新聞 2009年10月2日掲載)