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県立ぐんま昆虫の森園長   矢島 稔(東京都台東区)  




【略歴】東京都出身。東京学芸大卒。昆虫生態学専攻。1961年、動物園に日本初の昆虫部門創設。87年に多摩動物公園長就任。99年から現職。日本博物館協会棚橋賞受賞。



捕虫網の貸し出し



◎子供に「採る」体験を




 子供のころは、夏になればバッタやトンボを採った。カブトムシを採るには、少し早起きして雑木林に行った。そこには、幹を足で蹴(け)ればパラパラと落ちてくる秘密の木があった。

 つまり、昆虫は子供にとって自分で採れるかわいいペットであった。ところが原っぱや林が無くなって、スーパーでカブトムシが売りに出されると、自分で採っていた世代はお金で買う気になれず、虫から離れて他のもので遊ぶようになったが、小さな子は買うほかないし、それが当然になった。こうしてしばらくの間カブトムシやクワガタはバケツの中にいてお金で買う商品という期間が続いた。大人にはこういう印象が強く、「虫は売れる」と今でも思っている人がいるが、実はほとんど売れないそうだ。

 「昆虫の森」がオープンした4年前、殺生禁断の倫理から、「生命は大切に」という主張が単純に虫を採ってはいけないという方針に変わって社会に広まっていたので、今の30歳代の教師や両親には、虫を採った経験のない人が多い。

 しかし昆虫の森には広いフィールドがあるので、捕虫網を100本用意し小学生に貸し出すことにした。採れば昆虫の習性が分かるからだ。恐らく施設としては国内で初めての試みだったと思う。しかし長い間そうしてはいけないという指導が続いたために、若い両親や教師のほとんどは採り方を知らない。

 ところが、小学生だけに貸し出している網を親が使い始めると、動きは速いし手が長く、すぐに虫かごがいっぱいになってしまい、それでもやめようとしない。採るのが目的の人はブレーキがきかなくなってしまうのだ。

 これが問題で、観察や飼育のために子供に採るのを認めたのに、大人が狩猟本能をむき出しにして一匹でも多くという競争心で採ってしまったらたまったものではない。限られた園内だから、たちまちバッタは減り、トンボも少なくなってしまった。さすがに明日来る人のために、そして来年のことも考えてほしいと思い出した。

 他の施設が採ってはいけないとしているのは、都市公園法などの規制があるからで、幸い昆虫の森はそういう法の規制がない場所だから、網を貸そうと考えたわけである。しかし、だから何をしても良いわけではなく、ここに来てくれる多くの人の迷惑にならないという社会全体のルールは守っていただきたい。やむなく今は「採った昆虫は観察したら元の場所に放してください」というアナウンスを流し、網の貸し出しはまだ続けているのだが…。





(上毛新聞 2009年10月17日掲載)