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県自然環境調査研究会員   斉藤 裕也(埼玉県小川町)  




【略歴】横浜市出身。北里大水産学部卒。環境調査の専門家として尾瀬ケ原、奥利根地域などの学術調査に参加。ヤリタナゴ保護に取り組み、ヤリタナゴ調査会会長。



放流で魚は増えるか―



◎「健全な川」を基本に




 利根川のサケが川から下り、北洋を回遊して母なる川に帰り着く確率は1%程度、100尾の稚魚のうち1尾しか親として戻ってこられない。他の99尾は成長の過程で他の魚に食べられたりしてしまう。厳しい生存競争である。それでもサケは増えることができる。サケは成長の途中で多くの稚魚が他の魚などに食べられて生存できないことを前提に、2000~3000粒もの卵を、高い生存率で稚魚となるように産卵するからこれが可能なのである。春先には多くの川で稚魚の放流会が実施されているが、このことは説明されているのだろうか。

 群馬県内では約30種の在来魚のうち23種がレッドデータブック(RDB)に掲載されるまでになっている。在来種の4分の3が何らかの形で減少が明らかで絶滅の危機にある。ここまでになったのは、生息環境の破壊が進んでいるからである。ヤリタナゴはその中でも顕著な例で、かつては県内でも広く生息したものが1カ所にまで減少してしまった。

 水源県である本県には多くの大型ダム湖が存在する。そしてその多くが利根地域にある。これらのダム湖はいずれも雪解け水を貯えるもので、ダム湖は冷水の貯蔵庫となる。この冷たい水を夏まで放流し続けていることが、利根川本流のアユの生育に大きな影響を及ぼしている。最近では漁業組合が利根川本流ではアユ漁は成り立たないため、アユの放流をやめてしまった。

 私がかつて参加した奥利根源流域の調査では、太古の昔から生き続けてきたイワナが広い範囲で生息していた。しかし今は、養殖したイワナが放流され、悠久の昔から保たれてきた奥利根の原点とも言える自然状態のイワナと、養殖された素性の分からないイワナとの混血が始まっている。

 無秩序な放流はさらに尾瀬にも及び、ここに本来生息しないヤマメが放流された。協同漁業権者である福島県と協議をして、両県で合わせて漁業権を返上すべきだと思う。

 放流された魚は命ある限り生きようとしている。しかし、それはあくまでも一時的なものでしかありえない。本質は川に魚が生き、繁殖して世代交代をして、個体数を維持していくことである。無事に稚魚が育っていろいろな成長段階の魚が多様に見られる川が最も素晴らしいことを、もっと多くの方々に知ってもらいたい。

 川が健全な状態であること。これは水域すべての問題解決の基本である。そのための活動はこれからも続けていく。






(上毛新聞 2009年10月21日掲載)