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前・商工中金前橋支店長   三室 一也(東京都世田谷区)  




【略歴】東京都出身。東京大卒。商工中金前橋支店長を経て、今夏からシステム部副部長。主著に『親と子の[よのなか]科』(ちくま新書)がある。



お客への気遣い



◎当事者意識で創意工夫




 群馬に単身赴任していた中年サラリーマンである。

 単身生活中は極力自炊をするようにしていた。そして冬といえば鍋であった。

 昨年の今ごろを思い出す。鍋の食材を買いにスーパーに赴く。必ず買うものはネギである。ネギは長いので買い物カゴからはみ出る。レジに並んで感動することがある。レジの処理が終わったネギをカゴに入れるとき、わざわざカゴの取っ手の下をくぐり通して置いてくれる店員さんがいる。店員さんの立場からすれば、これって結構面倒なことだと思う。でも、お客の立場からすれば、これなら長いネギが入っていても、すぐに取っ手を持ちやすい。

 こういったきめ細かい気遣いはマニュアルに書いてあるものではないであろう。お客の立場に対する店員さんの想像力がそうさせるのであろう。こうすれば楽になるハズだと。こうすればうれしいハズだと。

 似たような話をもうひとつ。群馬県内を営業で移動中、「催した」ついでに買い物をするコンビニ、あ、失礼、買い物のついでに「用を足す」コンビニの店員さんの話。レジに並んでいると、私の前のお客に対しては「頑張ってください」、私に対しては「行ってらっしゃい」、出口に向かうお客に対するあいさつが違うのだ。私の前のお客は、近くの工事現場で働いている風の若者だった。これから力仕事が待っている背中に「頑張ってください」の声。絶対にうれしいハズだ。

 これも、当然マニュアルに書いてあるものではない。店員さんのささやかな創意工夫なのだと思う。

 それぞれ、そこまでする必要のないことである。言われたことを必要最小限こなせば良いハズである。にもかかわらず、この日本では、こうしたささやかな気遣い、ささやかな創意工夫が、あちらこちらの現場で行われている。

 中谷巌という経済のセンセイはこうした日本人の美質を「当事者意識」という言葉で表現している。日本企業においては、現場の一従業員であっても、高い当事者意識で問題解決に当たるという精神風土を持っているとのことだそうな。

 当事者意識―裏を返せば他ひ人と事ごととして放ってはおけないココロ。現場を少しでも良くすることが他人事ではないと思えるココロ。こんなココロがあり続ける限り、日本は底力を常に発揮し続けるだろう。

 もっとも、このココロはガラス細工のように壊れやすいもののようである。連帯感みたいなものがなくなると、もろく崩れる可能性がある。

 組織における連帯感、あえて言えば、その再構築。考えてみる必要がありそうだ。






(上毛新聞 2009年10月22日掲載)