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日本動物愛護協会群馬支部長  石井 文子(高崎市岩押町)  




【略歴】埼玉県出身。2001年、日本動物愛護協会群馬支部を結成。同支部のアニマルランドで犬と猫の里親探しに力を入れる。また、講演会など啓発活動を積極的に行う。



犬猫の理不尽な「最期」



◎許せない人間の身勝手




 ここは森の中にある動物管理センター。各保健施設で捕獲された、飼い主のいない、あるいは飼い主に捨てられた犬猫たちが運ばれてきます。彼らの生涯にまもなく終止符が打たれるのです。輸送車がやってきました。その狭いおりの中で、体をぶるぶる震わせている子、うずくまっておびえている子。よく見れば犬たちの大半が首輪をしています。かつては飼われていたことを物語っています。

 「まあ、なんてかわいい」と言われて腕の中に抱かれ、ぬくもりを感じ、家族の一員として迎えられたことでしょう。小さいころのこんな経験は、彼らに、人間を信じ裏切らないことを教えます。たとえ、これからどんなつらいことを経験しようとも、基本的には彼らは人間を裏切りません。

 では、私たち人間はどうでしょうか? 日々の世話の手間、朝夕の散歩、近所からの苦情、引っ越し、単に動物が大きくなったということ。去勢や不妊手術を施さずに生まれてきてしまった余分な命。さまざまな理由で、人間は、かつてかわいがった犬猫たちを邪険に扱い、無視し、ゴミのように捨てるのです。

 輸送車から降ろされ、施設の奧に運ばれた犬猫たちが見るのは、コンクリートに囲まれた、薄暗い無機質な空間です。ここで彼らは、その短い命を終わりにさせられるのです。

 理不尽な「最期」を強いられる命。こんな身勝手なことは許されるはずはありません。でも、年間5千匹の命が処分されているのがこの群馬県の現状です。

 宝石のような目の輝きのかわいらしさ。信頼をもって飼い主を慕うその姿に人は心引かれます。そして一生大切に育て、守ることを約束したのですが…。

 親や兄弟と一緒に生後2~3カ月を過ごした子犬は、その間に犬としての正しい認知行動と知識を学びます。では、よくペットショップで売られている愛くるしい様子の子犬たちはどうでしょう? 残念なことに、かわいさを売ることが優先されるあまり、親兄弟と過ごして学ぶその大切な時期を独りぼっちで不安におびえながらゲージの中で過ごしていることが多いのです。これは、この先の「無駄ぼえ」「警戒感」「攻撃的」「人をかむ」などの問題行動に結びつきます。

 保健所に保護される犬たちには問題行動の犬も少なくありません。良いしつけを施せば問題行動も正すことができるのに。飼い主の勝手な理由により最期までみとる責任も果たさずに、こうした役割を保健所職員に押し付ける。何の罪も無い動物の命が消されている。職員はこの日が終わると、お線香を上げ、手を合わせます。日々、かわいそうな犬猫の間で呼応する命の声に奮闘しております。






(上毛新聞 2009年11月4日掲載)