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高崎経済大地域政策学部長  大河原 真美(高崎市栄町)  



【略歴】上智大外国語学部卒。豪シドニー大法言語学博士。2007年8月から高崎経済大地域政策学部長。裁判で使われる言葉を研究、著書もある。家事調停委員。


裁判員の納得


◎被告人の気持ち理解を



 12月8日から群馬県でも裁判員裁判がいよいよ始まる。ここで、8月3日から東京地裁で行われた全国第1号の裁判員裁判を少し振り返ってみたい。

 東京地裁の事件では、隣に住む女性を刺殺し殺人罪に問われた被告人の男性に懲役15年(求刑懲役16年)の判決が出た。裁判官だけでの裁判では、求刑の八掛けが相場と言われているので、裁判員が入って判決が重くなったようである。被告人の方も東京高裁に控訴している。

 9月4日の青森地裁の強盗強ごうかん姦罪事件の裁判員裁判では、求刑通りの懲役15年の判決。この他にも相場を超えて重い判決が出る裁判員裁判が多く、裁判員裁判で判決が重罰化しているように見える。しかし、9月9日の山口地裁の介護疲れの殺人未遂事件では、執行猶予つきの判決が出ている。裁判員裁判が単純に重罰化するとも言い切れない。要は、裁判員が被告人の気持ちや行動に納得できるか否かである。量刑はその納得度の結果と言える。

 東京地裁の裁判員裁判では、被告人の弁護人は、「被害者に原因のある紛争」、すなわち、被害者にも落ち度があるということを主張した。しかし、法廷に出てきた証人をみると、被告人の前科や殺意の強さの確認をする証人しかいなかった。

 そもそも、隣近所で起きた殺人事件で、死者(被害者)に鞭(むち)を打つような話を法廷でしてくれる人を見つけるのは至難の業。近所のいさかいというのは、市民にとって身近なこと。それくらいで殺されたらたまらんというのが市民の本音。

 前科についても、裁判官は一つの過去として事務的に考えることができるが、市民の方は、敏感に反応する。よって、それを払拭(ふっしょく)できる、被告人の人柄のよさを証言する証人がいないと、裁判員が納得することは難しい。一方、介護殺人未遂事件は、介護の大変さを市民が共有しているので、被告人の気持ちや行動に対して速やかに理解できる。

 裁判員裁判で量刑が重くなったとすれば、凶悪事件のこれまでの判決の刑が軽すぎると市民が思っていたことの表れ。その意味において、裁判員裁判には市民の見解が反映されている。

 そうは言っても、弁護人には、裁判員の納得が得られるような弁論が求められる。一方、裁判員にも、刑事裁判は、国家(検察官)が個人(被告人)を訴えた事件であり、被告人に弁護人がついていても組織力がないため非力であることをいま一度理解しておく必要がある。不十分と思える被告人の発言、検察官と比べると地味な弁護人の弁論から、被告人の気持ちや行動をくみ取る理解力が裁判員にも求められる。

 群馬県でも裁判員裁判が始まるにあたり、裁判員にも被告人にも納得できる審理を期待したい。






(上毛新聞 2009年11月13日掲載)