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NPO法人ノーサイド(高次脳機能障害者と家族と支援者の会)理事長
                                立上 葉子
(高崎市井野町)  



【略歴】前橋市生まれ。相模女子大卒。長男が高次脳機能障害と診断されたことをきっかけに、2007年に同障害者と家族を支援するNPO法人「ノーサイド」を設立。


増える高次脳機能障害



◎誤解で孤立することも



 「頭を強く打ち脳挫傷で重症ですが、命には別条はありませんでした」。こんなニュースを目にするたびに、命を取りとめて本当に良かったと誰もが思います。私は、もう一つ、この人の家族はちゃんと「高次脳機能障害」になるかも知れないと告げられただろうか、どうしたら良いか助言を受けただろうか、その言葉を理解できたのだろうか、と思ってしまいます。

 交通事故に限らず、転落事故や脳炎など、医療技術の進歩に伴い脳に損傷を受けても助かる命は多くなりました。でも、そこに「高次脳機能障害」と闘っている当事者と家族がいることをご存じでしょうか、その障害が医療技術の進歩とともに増えていることを知っているでしょうか。

 「○○さんは事故に遭ってから人が変わってしまったらしいよ」「仕事もすぐ辞めてしまいぶらぶらしているよ」「体はしっかりしているのにねぇ」などという話を聞いたことはありませんか。私たちは骨折したらギプスをし、骨が付いたらリハビリをすれば元に戻ると思っています。脳に損傷を受けても、時間がたてば治ると思って疑いません。

 ですから受傷後、意識不明の時期を乗り越え、歩けるようになるまで回復し、病院を退院するころには家族はホッとしていますし、本人も早く復職(復学)したいと思っています。家族はこのころ「何かがおかしい」と思ってはいますが、事故のショックのためでじきに治ると思っています。これまでは、家族が一生懸命介護し生活全般をフォローしているため見逃されていますが、本人が一人で社会とかかわるようになって来ると、不都合なことが表面化してきます。例えば今日が何月何日だか分からない。季節が分からない。家族の見守りや助言があれば良いのですが、自分一人では、洋服の選び方や、身支度がちょっと変になったりします。また、会議などでうなずいてはいますが、内容を理解できていなかったり、記憶の障害で忘れていて、その決まったことを実行できない場合もあります。

 そうなると周囲からは「ばかにしているのか」などと誤解されるようになります。こういった誤解やトラブルが繰り返されると、友人や周囲の人は離れて行き、本人は自信をなくし引きこもってしまうこともあります。自分は悪くないとトラブルを重ね、やがて孤立し、行き場所をなくしてしまうこともあります。家族が相談に行ってもうまく説明できず、相手にしてもらえないこともあります。支援の遅れている群馬県では、自分や家族がこの障害であることを知らず適切な支援を受けることなく日々過ごしている方がまだおられると思われます。私たちは一人でも多くの方にこの障害を知っていただきたいと思い活動しています。





(上毛新聞 2009年11月22日掲載)