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東京福祉大学大学院教授  手島 茂樹(前橋市下佐鳥町)  



【略歴】日本大大学院文学研究科心理学専攻博士課程。育英短大教授を経て現職。専門は臨床心理学。大学院にて臨床心理士を養成。日本パーソナリティー学会理事。


焦燥感をなくすには



◎自分の価値観見直して



 現代の人々の心の特徴を一言で述べれば何か。焦燥感だと思う。いつも何かに追い立てられ、少しでも遅れると焦りのゴングが鳴り響く。そこで、この時期、書店では、新しい手帳が並び始めるが、従来型に加えて、スケジュール管理の仕方に工夫がなされたものが数多く出回ることになる。国際化の流れの中で企業は、厳しい競争にさらされ、そこの人々さえも負け組、勝ち組という分類が浸透し、せめて時間管理だけでもしっかりし、落ち度のないようにという考え方がそこに見え隠れしているように思うが、どうであろうか。

 しかし、メンタルヘルスの観点からは、このスケジュール管理に気を取られた生き方は、大きな落とし穴があると言いたい。強迫的に仕事へ押し流されかねないからである。

 今のこの時代の問題は、この厳しい競争自体にあるのではない。その競争から自分を失いがちになるわれわれの心のあり様が問題なのである。われわれは長い間「長いものには巻かれろ」で、確かな自分の価値観にもとづく選択をしてこなかった。従って、スケジュール管理以前に価値観の確立が求められていると言いたい。

 では、どうしたらよいか。自分の価値観を見直し、生活を立て直していくことである。メタボなどの生活習慣病への対応と同じである。本学(東京福祉大)の心理学部長の松原達哉教授は、筑波大学時代に無気力なアパシー対策に生活分析的カウンセリングを提唱し、それにより博士号を取得しているが、このカウンセリング法が役立つと言いたい。価値観を確立していく方法論が含まれ、かつそれにそった生活を支援する工夫があるからである。

 ここではその原理だけでも簡単に述べておく。まず、一生を見渡してもらう。一本の直線を人生に見立て、年齢を記入し、今後どうしていきたいか、記述していく。二つ目には、付箋(ふせん)紙のような紙に具体的にすべきこと、したいことを順不同で自由に書く。そして、同じようなもの同士でグルーピングしていく。これにより自分の生活様式を一目でみつめることができる。続いて、取り組むべき順番を決めていく。本カウンセリングのミソはここにある。順序づけから価値観が明確化できていくからである。三つ目は、すべき重要なものを取り出し、どのようにやっていくかその実行計画を具体的に書いていく。

 専用の用紙もあるが、原理はたったこれだけである。実際にやってみると心がとても落ち着く。自分好みの人生や生活に近づくからである。実行できた時の喜びも格別となる。この作業から、ライフワークバランスもとれ、焦燥感も消え、さらなる前進へと向かう。






(上毛新聞 2009年11月29日掲載)