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尾瀬保護財団研究員  橋本 幸彦(前橋市上小出町)  



【略歴】大阪大基礎工学部卒。東京大大学院農学生命科学研究科修了。元自然環境研究センター職員。農学博士。尾瀬保護財団でツキノワグマの保護管理対策に取り組む。


ツキノワグマとの共生



◎真正面から向き合って



 9月に岐阜県・乗鞍スカイライン・畳平でツキノワグマに襲われ、9人の方が重軽傷を負いました。けがをされた方の早期の回復とともにこのような惨事が二度と起きないことをお祈り申し上げます。

 私は尾瀬国立公園でツキノワグマと入山者がうまくつきあっていけるよう、さまざまな対策をしたり、そのためのマニュアルを作ったりしています。乗鞍の事故は他人(ひと)事とは思えませんでした。

 事故後、岐阜県や岐阜大学が事故の状況などを調査していますが、このクマは決して人為的な食物に餌づいていたわけではなく、周辺にはコケモモなど天然の食物があったとのことでした。個人的にはこのクマは普通に生活していたところを、人間がたくさんいる場所にうっかり入りこんでしまい、人間側の不適切な初期対応も重なって、パニックになり、惨事を招いたのではないかと考えています。このクマは駆除隊によって捕殺されました。

 北海道だけにいるヒグマと比べればツキノワグマは小型で殺傷力は低いのですが、毎年のようにツキノワグマに襲われて亡くなる方がいます。ツキノワグマは決して安全な動物ではないのです。このような動物と共生していけることこそ万物の霊長といわれる人類の叡智(えいち)ではないでしょうか。尾瀬をはじめとする自然公園では、市街地や里山に比べ自然を保護することが重要です。原生的自然の象徴種であるクマは人との軋轢(あつれき)が生じたからといって一方的に排除するのではなく、できるだけ譲ってあげることが重要です。

 クマと共生する上で重要なのはクマと真正面から向き合うことです。自然公園に客を迎える人たちはクマがいることを隠さず、逆にそれを前提にさまざまな危機管理をすることです。例えば危険な兆候を見落とさず、危険と判断したときは早めに来園者に伝えて、場合によっては一時的閉鎖や巡視などが必要です。

 また自然公園を訪れる人はクマに出会うかもしれないと認識し、準備を行うことです。ごくまれに「尾瀬にもツキノワグマがいるの?」と聞く人がいます。こういうとき「本州の陸域の自然公園にはほぼ確実にツキノワグマがすんでいますよ」と答えます。こういった知識をあらかじめ持ち、例えば事前に行く場所の観光案内所などに問い合わせ、クマの情報を集めておくことなどが重要です。それから、クマ鈴などを準備したり、現地ではごみを落とさないなど、人為的な食物に餌づく原因を作らないことです。

 迎え入れる側、訪れる側の双方がこれらの準備をすることで、誤った初期対応が減ることにつながります。そうすれば死傷者が減り、殺さずに済むクマも増えるかもしれません。





(上毛新聞 2009年11月30日掲載)