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県建設業協会会長  青柳  剛(沼田市西倉内町)  



【略歴】早稲田大大学院修了。前橋工業短大専任講師などを経て1981年に沼田土建入社。94年から同社社長。今年5月、県建設業協会会長に。著書に「銀色万年筆」など。


災害情報共有システム



地域密着の役割示す



 昨年6月、群馬県建設業協会が土砂災害などの情報収集を行う「GPS(衛星利用測位システム)携帯電話を使った災害情報共有システム」を立ち上げた。民意主導としては全国初の取り組みである。その後、今年9月には栃木県建設業協会も役員会で議論され同様な取り組みが始まり、先月は茨城県建設業協会が本県を視察に訪れた。他県がこのシステムに対して積極的になったのは、昨年の秋以来、景気刺激策として公共投資に対して目が向けられた政策から公共投資削減へと急激な政策変換されそうなことへの対応の第一歩だと思われる。

 昨年の春先も同じような状況だった。全国各地で地域を代表する建設業の破綻(はたん)が相次いだ。1998年ごろから続いてきた公共投資削減の波に耐えられず撤退することになったのである。建設業協会としてどうすればこの逆風を切り返すことができるか。「台風、大雨、除雪などに防災能力をもつ建設業の果たしてきた役割が忘れ去られているのではないか」「建設業の果たす役割をしっかりと国民に理解してもらうことを継続的にやっていくしかない」と思い、地域を守るという、どちらかといえば地味な「防災訓練」を外に向かって発信することにした。

 2、3人で計画を始めた。台風時を想定してパトロールを行っていることに絞って訓練することにした。訓練に参加する人たちにとって負担が少ないほうがいい。金銭的にも労力もそれほどかけずに訓練を行うことが基本だ。それでも、パトロールの状況をただ表現するだけでは、訴えかけるものが少ない。もうひとつ工夫しなければ外向けに発信するには弱い。パトロール、仮復旧作業の状況を画像で送り、訓練会場で把握できれば分かりやすい。ホームページ、ブログ…と試行錯誤の果てにようやくたどり着いたのが「GPS携帯を使った災害情報共有システム」の開発だった。

 にわか仕立てだったが、昨年6月に沼田市で行った訓練には120人余が参加し、成果を挙げた。ちょうど、宮城県沖の地震災害があったことも多くの関心を引くのに役立った。

 その後、1年をかけて県内全域の建設業協会員がシステムを共有することになった。今年8月の台風9号、10月の台風18号では実際に会員が正確な災害情報を送信しだした。「GPS携帯を使った災害情報システム」は地域に密着した建設業の役割を表現する旗となりつつあるのである。

 公共投資の必要性を問いかけるためには、後戻りする議論ではなく前向きに本来の役割を推し進めていくことである。秋田、宮城、山梨、高知でも群馬のシステムを取り入れる動きが出ている、いずれ全国レベルの協議会を立ち上げたいと思っている。






(上毛新聞 2009年12月10日掲載)