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実践女子大教授  大久保 洋子(東京都江戸川区)  



【略歴】富岡市出身。実践女子大、同大学院修了。修士。管理栄養士。都立高校、文教大短大部、目白大短大部を経て実践女子大教授。主任。専門は調理学、食文化研究。


なぜ食育か



変化に応じた選択力を



 「早寝、早起き、朝ごはん」。小学校のキャッチフレーズです。太陽が昇るとともに起き、沈むとともに眠りに就くという生活は、ある意味理想的な生活なのかもしれません。人類は火をコントロールする術を手に入れた時から自然破壊を始めたといってよいのではないでしょうか。明かりを手に入れ夜も起きていられる生活を手中にし、より快適で便利な生活にしてきました。ただし、便利さを追い求めるあまり、地球の生態系がくずれ、地球規模で支障が出ています。

 子供たちの生活も夜型になり、朝の目覚めがよくないようです。家事従事者の煩雑さを少しでも軽くするようにあの手この手の工夫がなされ、料理も簡便化の方向に進んでいます。そして、漠然とですが、「何かが変?」と感じ始めたころ、2003年に食育基本法が制定されました。そして栄養教諭という新たな教員免許が導入され、私の大学でも栄養教諭養成ができることになりました。

 現在私は彼女たちの最終段階である「教育実習」を担当し、指導をしております。実習の場は公立の小学校中心に行われ、子供たちに栄養学や食文化などを通じて食事の摂取に対する自己管理能力をつけさせる授業に取り組んでいます。この講座は管理栄養士専攻に所属し、栄養教諭を希望する学生のみを対象としております。従来、食の問題は生きることに対して最も基本的な面が多いために、主として家庭がその役割を担ってきました。理論的なことはもちろん学校教育でなされてきましたが、食教育は主に栄養面や食品の知識などを中心に小学校高学年から家庭科で扱われています。もう一方で学校給食を通して栄養士または管理栄養士が昼食時間や授業外の時間を使って指導しているのが実情です。

 なぜ低学年から授業として食育をしなければならなくなったのか。日本の食事情は日本人の食生活の変化を映しだしており、その問題点は先進国の問題でもあるということです。実際大人たちの食生活が決して満たされておらず、混こん沌とんとしているためではないでしょうか。そして子供たちの食生活も同様であるといえます。もちろんすべての人々がそうではありませんが、その数が年々増加しているといえます。食材は種類も増え、豊かになった半面、加工食品の知識や情報、流通の問題などをふまえて消費者の選択力が必要になっています。

 明治時代に福井県出身の石塚左玄が食育という言葉を使用しています。体育、知育、徳育の基礎を支えるのが食育であると言っています。食のありかたは人類にとっていつの世も健康で長寿を希求する源として永遠の課題であるといえます。





(上毛新聞 2009年12月11日掲載)