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対話法研究所長  浅野 良雄(桐生市三吉町)  



【略歴】東京福祉大大学院修了。群馬大工学部卒業後に電機メーカーで自動車関連部品の研究開発。その後、コミュニケーションの指導や講演活動などを行っている。


誤解によるすれ違い



必要な双方の工夫



 近ごろ、社会情勢を反映してか、「より多くのコミュニケーションが大切」という提言を聞く機会が多い。しかし、実は、コミュニケーションはもろ刃の剣であり、人と人とを結びつけることもあれば切ることさえある。「あの人は私の気持ちを分かってくれない」とか「あの人に言わなければよかった」と感じるのは、ほとんどの場合、不適切なコミュニケーションが行われた結果である。それが頻繁に起こると、対人関係に自信がなくなり、それが高じて心の病にかかることにもなりかねない。私は心理カウンセラーという仕事もしているが、悩みやトラブルの元をさぐっていくと、多くの場合、重要な人との間での心の結びつきの希薄さや、不適切なコミュニケーションに突き当たる。

 仕事柄、鉄道を利用する機会が多い。上越市から戻る在来線の車中で、たまたま地震に遭遇し、数十分ほど停車した。「地震のため停車します」との車内放送はあったが、新幹線への接続の可否についての案内はなかった。越後湯沢で新幹線を待っていると、私と同じ列車に乗っていたと思われる男性客が、大声で駅員に話しかけているのが聞こえた。見ると、駅員とは言っても、「研修生」という腕章を付けている。駅員は、その客に向かって、「どうも済みません」と、何度も頭を下げていた。ところが客は、「先ほども言ったように、私は、あなたに謝ってくれと言っているのではないんだよ。今回は仕方がないとして、せめて次からでも、新幹線への接続のことを事前に車内放送するように、上の人に伝えてほしいのだよ」と言っている。しかし、駅員は、相変わらず「済みません」だけを繰り返していた。そんな同じ言葉のやりとりが数回続いた。

 駅員が、「はい、あとで伝えておきます。ご提言ありがとうございました」と言えば済んだ話なのかも知れない。ところが「済みません」としか言わないため、客は客で、自分の真意が伝わっていない無念さで、何度も同じことを言ったのだろう。その言葉がますます駅員を委縮させてしまったようである。客はついにあきらめて、その場を離れたが、駅員の心の中に、苦情をしつこく言う嫌な客だという「誤解」しか残らなかったとしたら残念である。

 この駅員に限らず、私たちも、日常生活の中で、これに似た事態、つまり誤解によるすれ違いに遭遇しているのではないだろうか。特に、人は、思いがけない事態に遭遇すると慌ててしまい、相手の言葉の「真意」が聞こえにくくなる。そして、誤解が起こりやすくなる。これを防ぐには、話し手と聞き手の双方の工夫が必要だろう。そこで、次回から、質の高いコミュニケーションのとり方について、体験談を交えながら提言していきたい。






(上毛新聞 2009年12月16日掲載)