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公認会計士・税理士  並木 安生(東京都中野区)  



【略歴】富岡市出身。慶応大経済学部卒。大手監査法人などを経て2008年から都内で会計税務事務所を運営。国内外のM&A(企業の合併・買収)の支援にも従事する。



企業再生と税務



多額の税金生じる恐れ




 日本経済が堅調に回復する兆しがない中で、企業が生き抜くためにはどのような手法が考えられるだろうか。まずは、他社に類を見ない強みを身につけることに注力すべき点が挙げられるが、状況によっては不採算事業の切り離し・優良事業への特化などの事業再編、あるいは民事再生法等の法的整理を利用した企業再生の断行、という大がかりな再生手法も考えられよう。

 実際、群馬県内でも、建設業、サービス業やゴルフ場運営などの各分野で、事業再編や民事再生法を活用した数多くの企業再生が行われてきた。経営者の方々は、引責のために多くの犠牲を払うことを余儀なくされるため、苦渋の決断であったことは想像に難くない。

 このような再生手法を行う場合、税務の面で気を付けなければならないことがある。経営者の覚悟や士気に悪影響を及ぼすような、予想外で多額の税金が生じる可能性があるという点だ。抜本的な事業再編や法的整理であればあるほど、税制も複雑となり、思わぬ罠わなに陥りかねない。

 具体例を挙げよう。複数の事業を営んでいた企業が、経営の効率化や財務の健全化を図るために、自社の不採算事業を他のグループ企業へ分社化したとする。この場合、後日分社先のグループ企業で生じた費用のうち一部が、何故か経費として落とせなくなってしまうという不思議な現象が起こる恐れがある。結果として、その分だけ節税効果が見込めなくなるのだ。分社先のグループ企業で大掛かりな資産整理を行い、売却や処分に伴う損失が生じる場合、このケースに該当する可能性が高い。

 また、民事再生法の下で企業が債務免除を受ける場合も、注意が必要だ。税務上、借入金がなくなった分だけ利益が生み出されたとみなされ、課税の対象となってしまう。このような企業は債務超過の状態にあるため、往々にして十分な資金が手もとにない。また、当然のことながら、債務免除を受けたからといってそれに見合う資金が入ってくる訳でもない。したがって、何ら税務上の対策を講じなければ、納税の原資がないにもかかわらず、税金を支払わなければならないという事態に陥る可能性があるのだ。

 以上に述べたような税務上のデメリットを金額に換算すると、企業に納税資金があるか否かにかかわらず、一企業当たり何億円という単位にまで上ってしまうことがある。したがって、企業の再建を第一に考えると、課税を不当に回避するものではない限り、過剰な納税はできるだけ少なくする方向で行きたいものだ。税務上の落とし穴が、経営者の足を引っ張るだけではなく、景気浮上の足かせとならないためにも。





(上毛新聞 2009年12月21日掲載)