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県技術支援課有害鳥獣対策主監  久保寺 健夫(高崎市井出町)  



【略歴】旧中央高卒。1970年に県庁に入庁、自然環境課、蚕糸園芸課などで勤務。2008年から現職に就き、人や農作物に害をもたらす鳥獣の対策を担当する。



野生動物の食害



人との軋轢が深刻に




 「イノシシはどこまで下りてきているのか」。先日、赤城南麓(ろく)・前橋北部の芳賀地区に住む先輩からこう聞かれた。先輩は定年帰農で農業に従事しており、昨年からは前橋のサツマイモでイモ焼酎を造る活動を行っている。来年以降、どの畑でサツマイモを作ったらイノシシ被害から守れるか検討しているとのことであった。

 地元の猟友会員からは、国道353号を越えそうとの情報を得ていたのでそれを伝えたが、県内でのイノシシ生息域の最前線は、限りなく都市部の住宅地近くまで近づいている。

 また、今年はあちこちで、何度トウモロコシの種をまいてもハクビシンに食べられ収穫できなかったとの声を聞かされている。

 カモシカ2億1000万円、イノシシ8500万円、ニホンザル4000万円、ニホンジカ1200万円、ハクビシン1300万円…。これは2008年度の野生動物による農作物被害額であり、総額は3億7800万円となっている。

 「明日スイカを収穫しようと思ったら、その朝サルにもっていかれた。農業をやって収穫できないことのつらさはない。サルよけの電気柵を設置したい」。これは、数年前利根郡のある町で行われた被害対策研修会での参加者の声であったが、その後、状況はますます悪化しており、現在、利根・沼田地域や吾妻地域の山間地域では、電気柵等で囲われた農地が普通に見られる光景となっている。その柵で囲われた農地は、赤城山、榛名山の南斜面へも年々広がりを見せている。

 これら野生動物による農作物の食害にさらされている地域では、電気柵等で囲わなければ、収穫ができない状態にまで追い込まれているのが現実である。

 県内での野生獣類による農林作物被害は、昭和50年ごろ、妙義山周辺でのニホンザルによるシイタケの食害から顕在化したと言われている。

 それから30数年、気がつけば、ニホンジカ、イノシシ等は、農作物被害を含めた、人との軋轢(あつれき)が社会問題となるまで急激に生息頭数・生息域を拡大させてきた。

 特に、過疎・高齢化が進む山間地域の市町村では、野生鳥獣対策は、緊急に取り組まなければならない、行政課題となっている。

 また、その一方で、都市周辺では、ハクビシン、アライグマ等が生息数を増やしており、家庭菜園も含め、トウモロコシ、サツマイモ、ブドウ等果実の農作物被害、生活被害が急増している。

 10年前、野生動物保護管理に携わるまでこの仕事にはまるで縁のなかった私は、現職について3年が経過したが、この間の取り組みを含め、これら野生動物被害対策の現状と対応策について、考えていきたい。






(上毛新聞 2009年12月25日掲載)