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NPO法人自然塾寺子屋理事長  矢島 亮一(高崎市中尾町)  



【略歴】宇都宮大大学院修士課程修了。青年海外協力隊員としてパナマで2年間活動し、帰国後に自然塾寺子屋を立ち上げた。2003年にNPO法人認証を受けて現職。



農村漁村を救うには



視点を変え価値見直す




 農村漁村に住む人で「何も誇るものがない」「退屈なところ」と卑下する人が今も少なくない。無理もない。田舎の基幹産業である第一次産業は衰退の一途である。

米は生産過剰を理由に減反を迫られ、山間地は1950年代からスギやヒノキの造林が一斉に始まり、60年代には外圧に押されて市場を開放、国産木材は価格競争に敗れた。国のもくろみはことごとくはずれ、手入れもされずにモヤシのようになった人工林が各地で不良債権化している。にもかかわらず、田舎ではそれらに代わる、あるいは不足を補う新しい仕事が創出されることはなかった。

唯一の頼みの綱が公共事業だったが、バブル崩壊以降は急減する。出口の見えない不安に駆られてきた田舎の人たちにすれば、一部の都会人が「心のやすらぐ癒やしの場」だという山や川、田園の風景はのろうべき「停滞の象徴」ですらあった。本当に自分たちの故郷には価値がないのか。お荷物と思ってきた山や川だが、見方を変えれば、新しい経済の鉱脈が眠っているのではないか。

 日本の社会には「こうあらねばならない」という既成概念や独特の閉へいそく塞感がある。しかし多文化や異文化に触れたわれわれ海外ボランティア経験者だからこそ「こうあらねばならない」と思い込んでいる研修生や都会の人々に対して「それだけじゃないよ」ということを提示していけるのではないか。

 海外ボランティア経験者は、ボランティア活動を通して視野を広げ、思い込みの枠を外すことができる。これはある種の強みである。いろいろな人種の人たちに出会い、いろいろな人生に触れたことで多様な価値観を得ることができた。そんなわれわれが感じたことは、日本の農村こそ素晴らしい文化や歴史がたくさん残っているということである。特に人的な資源である。それは元気な農村女性の方々である。彼女たちは確実に日本の発展途上の段階で重要な役割を担ってきたのだ。

 貧しい時代を知っている彼女らは、どうやったら限られた資源で今より良い状態にできるか、その思考を積み重ねてきた筋金入りの人々である。その貴重な技や経験を学べる絶好の場所が群馬の農村であり、甘楽富岡地域である。こうした日本の発展途上段階での経験を途上国に行く研修員に伝えることができる。資金・資源がなくても知恵を絞って少しずつ前進してきた人々が、この日本に確実にいたということを知らせることができる。かつて途上国であった日本に住むわれわれは、これから何とかして発展しようとする人々に、精神的にも近しい存在として、知識や技術だけでなく、心構えも伝えていけるのではないだろうか。





(上毛新聞 2010年1月16日掲載)