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群馬大大学院工学研究科教授  宝田 恭之(桐生市菱町)  



【略歴】群馬大大学院修了。東北大の研究所などを経て群馬大工学部教授に。同大工学部長を2005年から、同大大学院工学研究科長を07年から09年3月まで務めた。


研究開発が目ざすもの



健全な執念で世界初を




 個人的なことで恐縮であるが、27年前、民間企業から大学へ転職した。転職前に大学で研究する機会を与えられ、研究の魅力に取りつかれてしまったからである。

 大学での研究の魅力の一つは“自由”であった。何ごとにもとらわれず、自らの発想で自由に研究を進められる。今考えついたことを今すぐでも実行できるのである。こんなぜいたくはない。民間企業での開発も非常に楽しいものであり、なんの不満もなかったのであるが、自由度という観点からは大学に軍配が上がる。大学での研究のもう一つの魅力は“独創性”である。大学ではあくまでも独創性をとことんまで追求する。転職先の大学教授に徹底的に教え込まれたことは、この独創性であった。

 研究計画を説明に行くと、その教授から『これは世界で初めてだな』と必ず問われた。あとは何も聞かれなかった。研究を進める唯一の価値判断基準は世界で初めてかどうかであった。研究分野で二番煎(せんじ)は全く評価されないし、意味がない。どんなに素晴らしい理論を構築しても、どんなに画期的なデータを得ても、既に誰かが行ったものであれば、その評価はゼロであり全く業績にならない。独創的な仕事は難しい面もあるが、大変楽しいものでもある。世界中で誰もやったことがなく、誰もできなかったこと、つまり世界で初めてのことを追求するわけであるので、こんな愉快なことはない。自然と胸が躍ってくる。未踏峰の山に登るようなものであり、真っ白なキャンバスに絵を描くようなものである。その成果で68億人の人々が泣いて喜ぶようであれば感無量である。

 昨年、事業仕分けの中で『なぜ、世界で2番ではダメなんでしょうか』という言葉が茶の間でも話題になった。大学・研究などのアカデミック分野の基礎研究と産業界での応用研究とでは意味合いが異なるが、少なくともアカデミック分野では2番を目標に研究開発を進めることはあり得ない。

 また、わが国は科学技術創造立国を目指しており、産業界も20世紀の導入型技術開発から21世紀の創出型技術開発への質的転換を行っているところである。戦後、わが国は主として欧米からの技術導入で経済を発展させてきた。そして経済大国となり先進国の仲間入りを果たしたわが国には、今後世界をリードする情報を発信し、全人類の進むべき方向性を示すことが求められている。

 先頭集団の中からさらに先頭に出るには大変な苦労が伴うことが予想されるが、少なくとも得意とする分野では健全な執念を持って世界のイニシアティブを取り、豊かな未来社会構築に貢献することが重要と思う。






(上毛新聞 2010年1月19日掲載)