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東京福祉大学大学院教授  手島 茂樹(前橋市下佐鳥町)  



【略歴】日本大大学院文学研究科心理学専攻博士課程。育英短大教授を経て現職。専門は臨床心理学。大学院にて臨床心理士を養成。日本パーソナリティー学会理事。



通じ合う会話とは



心の幸せは「傾聴」から




 自分自身をそのままに認めてくれる人がいたらどうであろうか。心は幸せ感に包まれ、明日への活力となっていこう。

 しかし、現実は、違う。心を病む人が多い。なぜか。心と心とのキャッチボールの不器用さがその原因の一つである。

 ある夫婦のある日の会話から考えてみたい。今日は結婚記念日である。一緒にお祝いをしようと計画をしていた。しかし、夫から突然の電話。「今日は残業になってしまった。すぐに帰れない」という。さて、あなたが妻なら何と答えるであろうか。

 「残業では仕方ないわね。わかったわ」、あるいは「昨年もそうだったじゃないの。何とか断れないの」など、ではないだろうか。

 前者は受け身型と言い、自分の気持ちを納め、我慢している。後者は攻撃型と言い、感情を前面に出して抗議している。

 さて、これらで2人の心はうまく通じ合っているのであろうか。否である。心と心のキャッチボールには至ってないからである。

 受け身型は我慢である。心の底に少々の恨みが残る。一方、攻撃型も言いたいことが怒りに変わり、本当に大切なことを伝えていない。やはり不満が残る。

 そこで、お勧めは率直型となる。「事情はわかったわ。でも私の気持ちも聞いて。とても楽しみにしていたので本当に残念なのよ」。こう言えば、どうであろうか。

 夫も心を開く可能性が高くなり、「そう、ぼくも同じ気持ちだよ。申し訳ない」。こうなれば気持ちが通じ合い、お互いが許し合えてこよう。そして、お祝いをする以上のものが得られてこようというものである。

 では、なぜわれわれはこのような率直型の会話ができず、心と心のキャッチボールが下手なのであろうか。わが国の文化が関係しているように思う。われわれの文化は、人と人とが衝突しないよう気を配り、空気を読み合う習慣がある。

 しかし、その読み合いが裏目に出ることもあると言いたい。先ほどの妻の「わかったわ」も夫の立場も配慮し、「残念だけれど理解します」と伝えているつもりである。が、夫側には記念日を妻が軽く思っていると伝わることもありえる。では、どうしたらよいか。

 伝え方を工夫することである。それにはしっかり聴いてもらえることが条件となる。そうなら安心して自分自身の心に向き合い、本音を見つけ話すことができる。心と心のキャッチボールがこうしてスタートする。

 心の健康は、聴いてくれる人がいて初めて得られるものである。






(上毛新聞 2010年1月25日掲載)