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茨城大学非常勤講師  石山 幸弘(前橋市富士見町時沢)  



【略歴】県立土屋文明記念文学館など勤務を経て、茨城大・県立女子大非常勤講師。県内に足跡を残す明治末期の社会主義青年群像を追っている。




紙芝居の文化史的考察



◎精神医療のツールにも




 昨年12月初旬、米国・ワシントンのスミソニアン博物館の一角で紙芝居の実演が行われた。京都国際マンガミュージアムで活躍中の紙芝居師、安野侑志さんが招聘(しょうへい)された。要望の一つに鉄腕アトムの紙芝居版があったようで相談を受けて知った。

 実演に限らず、紙芝居の文化史的考察が現在とみに進みつつある。昨年だけでも国内では高松市の菊池寛記念館、姫路文学館、東京都千代田区の四番町郷土資料館でも企画展があった。先月17日には高田馬場にある日本児童教育専門学校で「新春紙芝居のつどい」と銘打って一昨年他界した街頭紙芝居の大御所、森下正雄氏の後継者松島会3代目デビュー披露があって150人余が参会した。4月には町田市立文学館でも企画展を開催予定と聞いている。

 この復活のうねりを文化史として考察しようとすれば、いくつかの視点がある。前回述べたように、出発期をみれば江戸期の「影絵」や「写し絵」といったお座敷芸や大道芸の源流から、娯楽の「庶民史」を描ける。語りや絵に注目する児童教育の観点は、制作と受容の双方から「子ども観の変遷史」として位置づけられる。また、メディアの視点から見るなら、国家統制とそのもとでの文化人(作家・画家・実演家)の姿勢の問題、戦後、GHQ検閲やその後制定された紙芝居業者条例(今は廃止)などを加えて、統制と表現の自由という、現在にも及ぶ側面をのぞかせている。

 しかし、そんな面倒な理屈を並べたてたから復活機運になったわけではない。

 背景にはいろいろある。団塊世代以上の郷愁感が時代の底にあるのではないかというのや、デジタル社会への反動だとはよく聞くことだ。なるほど完全なアナログの文化財だ。

 台東区立下町風俗資料館では毎月定期的に実演会が催されているが、観覧者の中心は30代~40代の男性が多い印象を受けるから、半分程度の当たり具合だ。

 社会の構造が変わって身近に家族で楽しめる「芝居」に触れる機会が減ったことも人気の秘密かもしれない。人が何ものかになりきって演じる姿を見るのは、年齢を超えて共感・共有感をつくり出す。

 さて、今日までの紙芝居の議論を振り返ってみると、論点は作品論、実演技術、観覧者の受容という3点におおむね集約される。

 しかし、ここで一つ加えておきたい効能がある。例えば自己表現を苦手としたり、やや引きこもりがちな子どもに3、4枚つくらせ、自ら発表させてみることだ。心模様を色で表現させる。形象にこだわらない。脇で介添え的に問いかけをして、本人の話の筋道を助けてやることで、心を開くチャンスを待つ。精神医療のツールの一つになり得ることだ。







(上毛新聞 2010年2月1日掲載)