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実践女子大教授  大久保 洋子(東京都江戸川区)  



【略歴】富岡市出身。実践女子大、同大学院卒業。修士。管理栄養士。都立高校、文教大短大部、目白大短大部を経て実践女子大教授。主任。専門は調理学、食文化研究。


江戸の庶民のおかず



◎工夫して環境にも配慮



 おかずという言葉はご飯中心の生活から生まれた言葉です。江戸と地方の食生活を比べて異なっていたところは、江戸では、なんといっても米ばかりの飯が3度3度食べられたことにあります。そして消費生活を余儀なくされた庶民の食生活は1日分を朝炊いて、炊きたては朝のみで昼、夕は冷や飯でした。茶漬けや雑炊に工夫して食べています。米を飯にすることは結構大変な作業です。約15%の水分に乾燥した米を65%の水分をもつ飯にするわけです。米は搗つき米屋でぬか分を取ってもらい、よく洗って羽釜で炊きます。母親は娘たちに火加減を「はじめちょろちょろ中ぱっぱ、おせん泣いても蓋ふた取るな」(地方によって異なります)と覚えさせ、加水量は羽釜に入れた米を平らにして手のひらを押し付けくるぶしまでと教えます。

 昨今は母親が子供たちに料理の基本を教えることは2極化しており、大学の調理実習も初歩から教える工夫が必要になることがしばしばです。技術に差がある学生を一緒に教える難しさを感じるこのごろです。

 現在は炊飯器、無洗米の時代です。炊飯器専用のカップと目盛りで頭をあまり使わなくても飯にすることができます。専用カップは一合(180ミリリットル)なのですが、現在の計量カップは200ミリリットルですから、21世紀になってもメーカーは開発した当時の計量基準で通しているのが不思議です。江戸の庶民の朝は飯と漬物とみそ汁です。漬物はたくあんを農家に頼んでつけてもらうことが多かったといいます。漬物をするにはスペースが長屋暮らしではとれないためです。たくあんはぬかがたくさん手に入る江戸ならではの漬物と言えるでしょう。ぬかはほかに銭湯でぬか袋として体を洗うのにも使われました。なにごとにも無駄がないように工夫している江戸の暮らしです。

 飯のおかずの話にもどしましょう。江戸の後半に刷られた『日用倹約料理仕方角力番附』があります。人気のあったおかずは八杯豆腐、こぶとあぶらげの煮物、きんぴらごぼう、魚料理はいわしめざし、むきみときりぼしの煮物などでこのころになると庶民の間にもしょうゆや砂糖、みりんなどが普及します。味付けは現在よりもしょうゆ味の強いもので、砂糖で甘くしたものはごちそうだったようです。まぐろからじるという料理があります。これはまぐろの赤身を具とした、おからいりの汁です。

 江戸の庶民のおかずは現在の私たちにとってもおなじみのお総菜です。キャベツも玉ねぎ、獣肉類もない生活でもなかなか工夫しています。環境に配慮しなければならない今日このごろ、江戸時代の食を一考するよいチャンスかもしれません。大学では江戸料理研究会を立ち上げ再現料理をして試食しています。







(上毛新聞 2010年2月6日掲載)