視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
武蔵丘短大准教授  高橋 勇一(東京都板橋区)  



【略歴】前橋市出身。前橋高、東京大教育学部卒、同大大学院農学生命科学研究科修了。農学博士。アジア緑色文化国際交流促進会副会長として自然再生に取り組む。


サステイナビリティ



◎後世に“高尚な生涯”を




 「環境の世紀」とも言われる21世紀を生きる上で、最重要の一つとなるキーワードは「サステイナビリティ(持続可能性)」であろう。最近は、スーパーマーケットでも、環境や健康に配慮している食品をアピールするために、この長いカタカナが使われている。この言葉は、もともと生物資源(特に森林や水産資源)を長期的に守りながら利用する条件を満たすことをいうが、広義には環境や資源を保全し、経済や福祉の水準を永続的に維持・発展させていくことを意味する。

 サステイナビリティが世界で広まったきっかけは、「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」による「持続可能な開発(サステイナブル・ディベロップメント)」の提唱である(1987年)。「将来の世代が自らのニーズを充足する能力を損なうことなく、現世代のニーズを満たす開発」のことだ。この概念は、92年にリオデジャネイロで開催された地球サミットを契機に、さらに世界的にその重要性が認識されるようになった。わが国の「環境基本法」(93年制定)にも「環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築」等が盛り込まれている。その後、東京大学をはじめとする複数の大学が、地球持続のビジョンの構築を目指し、「サステイナビリティ学」の確立に挑戦し続けている。

 ところで、上毛かるた「心の燈台(とうだい)」でも知られる内村鑑三は、若き日に、講演『後世への最大遺物』で清き心情を熱く語った。この美しい地球、この美しい国、我々を育ててくれた山、河、そして後世に何を遺(のこ)してゆけるのか。金か、事業か、思想か……。何人にも遺し得る最大遺物、それは、「勇ましい高尚なる生涯である」と。つまり、たとえ失望や悲嘆の世の中だったとしても、希望や歓喜の考えを生涯において実行し、後世への贈り物とすべきであると訴えた。そして、『代表的日本人』でも取り上げた二宮尊徳の生涯を紹介している。

 地球温暖化や生態系の危機に加え、日本も経済不況という深刻な事態に陥っている。この逆境をいかに乗り越えるか。リオ宣言でも「人類は、持続可能な開発に関する問題の中心に位置する」と謳(うた)われている。サステイナビリティの夢は、問題を解決して明るい未来を創造していくことだ。この瞬間にも、新エネルギーの開発や経済対策に取り組んでいる人々がいる。さらには、宇宙や地球から、光や空気をはじめ、実にさまざまな生態系サービスが常に提供され続けているという事実がある。知・仁・勇の高尚な生涯、幸福な家庭づくり、そして、健全な生態系管理……。将来の世代に、よりよい環境でのライフ(生命・生活)を保証できるよう持続的発展に努めたいものである。








(上毛新聞 2010年2月13日掲載)