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公認会計士・税理士  並木 安生(東京都中野区)  



【略歴】富岡市出身。慶応大経済学部卒。大手監査法人などを経て2008年から都内で会計税務事務所を運営。国内外のM&A(企業の合併・買収)の支援にも従事する。


節税と脱税の境界線



◎無意識に逸することも




 節税対策とは、われわれ税務の専門家を日々悩ませる分野の一つである。提案した税務上の処理が適法であれば基本的には問題となることはないが、これが脱税として認定されると顧客が金銭的・社会的なペナルティーを負ってしまう一大事となるためだ。

 節税と脱税にはそれぞれの明確な定義はなく、その線引きが容易とはならない場合も多いが、前者は法律を順守し事実に沿った形で税務処理しながらも合法的に税金を少なくする行為であり、後者は実態からかけ離れた処理を行い、その結果として税金を過少に納付する行為とも表現できよう。

 身近な交際費を具体例として両者の違いを説明する。まず原則として、会社が得意先接待のために飲食代を支払い、領収書を入手したとしても、交際費とされた場合は経費として認められない部分が生じてしまうことになる。ただし、仮に1人当たりの飲食代が5000円以下のものがあれば、所定の事項を書類に記し保管しておくだけで合法的に経費として処理することが可能となる。これは、税法上の恩典を有効活用し節税を図る典型例である。一方で、交際費に関する脱税の例としては、いわゆる水増し経費、つまり架空の領収書を使ってあたかも実際に飲食をしたかのように見せかけることなどが上げられる。

 以上の接待行為などの一般的な事業活動であれば、このように節税と脱税の違いはイメージしやすいが、事業再編や海外進出のような大がかりな取引の下であると、両者の線引きの難しさがいっそう増し、うかつにも脱税をしてしまうことにもなり兼ねない。

 海外取引を例としてその複雑さを説明する。群馬県内でも、低コスト戦略の一環として税率の低いアジア諸国へ進出し、海外現地法人を運営する会社が数多くなってきた感があるが、ある状況の下ではタックス・ヘイブン税制という制度が適用され、現地法人の利益が日本で生じたものとされ、日本の高い税率で課税されてしまうことがある。この制度を適用する必要がない会社が誤って適用してしまうことのないよう、目配りが求められる一方、どのような場合にこの税制を適用しなければならないか、明確な指針がないともいえる部分が少なからずある。また税法の解釈は時代の流れによって変わってしまう側面もあることから、会社が誠実に税務処理を行ったつもりであっても、脱税として取り扱われてしまう恐れが生じかねないといえる。

 このように、脱税とは意図的に行うものとは限らないケースもある。納税者が節税の枠を逸した脱税を無意識に行い、社会的信用を失うことのないよう、常にサポートしていきたい。








(上毛新聞 2010年2月16日掲載)