視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
石北医院小児科医師  石北 隆(渋川市渋川) 



【略歴】前橋高、東邦大医学部卒。医学博士。東邦大学医学部客員講師、日本小児科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医、日本小児科医会子どもの心相談医。



感染症の流行阻止に



◎うつさない努力が大切



 小児科の一般外来を受診する子どもたちの8~9割は「かぜ」などのウイルス感染症とそれに関連した疾患です。細菌感染症に対する抗菌薬はウイルスには無効ですので、不必要な抗菌薬の使用は薬の効きにくい細菌(薬剤耐性菌)を増やす原因となります。

 多くの感染症は原因となるウイルスや細菌が咳(せき)やくしゃみの飛沫(ひまつ)、手指の接触により鼻やのどに侵入して始まります。幸い、わが国は水に恵まれた国で日本人はよく手を洗う民族です。加えてマスク好きでもあるようです。新型インフルエンザで亡くなる方が海外に比べて格段に少ないのは、検査キットや抗インフルエンザ薬を世界で最も使用し早期に医療機関を受診できる環境があるからだけでなく、個人の予防意識が高いのも一因でしょう。

 興味深いことに新型インフルエンザの感染者は受験学年や特別支援学校で少なく、また新型インフルエンザの流行中は他の感染症が例年に比べ大幅に減少しました。日ごろからの予防の成果と思われます。しかし感染症の流行阻止には「うつらない」ための予防策よりも、感染者が「うつさない」努力をする方がより効果的です。

 数年前から「咳エチケット」という言葉が使われています。何を今さら、と思われる方もいるでしょうが、咳のしかたを知らない人が多いのも事実です。咳やくしゃみはウイルスや細菌を約2メートル飛ばします。インフルエンザでは1回の咳で100万個のウイルスが飛散すると言われています。他の人に向かって咳やくしゃみをするのは失礼にあたるということは本来、常識として大人が子どもに示すことです。

 この季節、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎とともに、子どもたちの間にはRSウイルス感染症が流行します。例年はどちらも初冬に流行が始まりますが、今年は新型インフルエンザが減少した年明けに急激に増加しました。ノロウイルスは食中毒の原因として有名ですが、感染者は数週にわたりウイルスを排せつします。感染者の手洗いが流行阻止に重要です。RSウイルスは赤ちゃんに重い肺炎を起こすウイルスです。厄介なことに大人や年長児には鼻水や咳のかぜ症状しかみられず、気づかないうちに感染を広げてしまいます。軽いかぜと思ってもマスクをしたり、人に向かって咳やくしゃみをしない気配りが大切です。

 感染症に要する国民医療費は年間約7000億円です。予防可能な感染症にかかることは本人にとって不利益であるばかりでなく、インフルエンザのような疾患の流行は社会への影響も甚大です。家庭のみでなく、学校や企業の危機管理に感染症教育は重要です。






(上毛新聞 2010年3月10日掲載)