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県立県民健康科学大学長  土井 邦雄(前橋市岩神町) 



【略歴】東京都生まれ。早稲田大理工学部卒。1969年からシカゴ大放射線科に勤務し、同大教授を経て同大名誉教授。昨年4月から現職。



米国での落雷火災②



◎保険会社が迅速に救済



 この欄で、前回、シカゴのわが家に雷が落ち、火事になったことを書きました。その翌日、保険会社に火事のことを連絡すると、それ以後、多くのことが次々に稲妻のごとく迅速に進行しました。

 まず、コントラクタと呼ばれる火災後の家を修復する仕事の請負人が登場します。次には、保険会社の専門家が、修復に要する材料と労賃を推定し、詳細な見積もりを作成したのです。それ以後、コントラクタは、保険会社の指示に従って作業を進めることになります。被災した家内と私は、数日間ホテルで過ごしますが、保険会社は不動産屋に依頼して、家が修復されるまでの間の借家を探してくれます。その借家は、最初、火災にあった家と同等の家を探してくれるのですが、森の中のさびしい大きな一軒家を選んでくれたために、これを断り、町の中の借家を選びました。この作業は電話とファックスによって急速に進みます。

 借家が決まると、直ちに、すべての部屋に必要なベッドや家具、電気製品、寝具、台所用品を、それぞれのレンタル会社が調達してくれました。これで、被災した家が再建されるまで、快適に過ごすことが可能になります。

 一方、火災後の家を修復する前に、家具などを一時保管しますが、大きな家具はそのまま移動し、小さなものは段ボール箱につめて保管します。この作業は、専門家によって手際よく処理されます。被災した洋服などは、煙の臭気を除去するため、特殊なクリーニング処理がされました。雷の強い電流のために、ガレージに止めてあった自動車は動かなくなり、テレビなどのほとんどの電化製品も、故障していましたが、これらはすべて修理されたのです。

 家の改修が終了すると、保管されていた家具などは家に戻されますが、その移動の時に起こる傷などについては、後日、家具や美術工芸品などの修復の専門家がほぼ完全と思われるほどの修復作業を行います。その結果、わが家は家事のことがまったく分からないほどに改修され、半年後には移り住むことができました。

 それまでに必要だった費用は、保険で完全にカバーされたのです。この費用は、ホテル滞在費、借家などのレンタル料、すべての修理費、修理中の光熱費などを含んでいます。アメリカでは、このような突然の災害に対して被災者を救済する家の保険についてのインフラが高度に発達し、極めて良くできていることを初めて知ったのです。特に、保険会社とのやりとりで不愉快な思いをしたことは全くありませんでした。

 なお、保険の費用を、正確に比較するのは困難ですが、日本での保険の費用とほぼ同等であることが後日分かりました。そこで、日本でもこのようなことができないかと願っています。






(上毛新聞 2010年3月11日掲載)