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NPO法人ノーサイド(高次脳機能障害者と家族と支援者の会)理事長
                               立上 葉子
(高崎市井野町) 



【略歴】前橋市生まれ。相模女子大卒。長男が高次脳機能障害と診断されたことをきっかけに、2007年に同障害者と家族を支援するNPO法人「ノーサイド」を設立。


障害者への支援の遅れ



◎家族の心情への理解を



 高次脳機能障害とは事故や病気が原因で脳に損傷を受け起こる障害です。群馬県ではこの障害に対する支援が遅れ、多くの当事者・家族たちは適切な支援を受けられずにいます。また、障害に特化したリハビリや生活支援・就労支援を行っている所が限られているため、病院スタッフも退院後はどこにつなげたらよいか困っています。そしてもう一つ、家族が高次脳機能障害を正しく理解できているかということも大きく影響する場合があるようです。

 高次脳機能障害である認知機能の障害には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあり、多くは一見しても周囲には分かりません。また、当事者も障害がある自分を見つけることができづらく、周囲の人の態度や対応などから、自分に記憶などの障害があることに気が付くようです。ですから、当事者の一番近くにいて、接する機会の多い家族が高次脳機能障害を理解し、適切な対応をすることが大きな鍵となります。

 今まで簡単にできたことができない原因が、高次脳機能障害であることを知らなければ、会社や周囲の人たちは、本人の性格や家族の甘やかしが原因と考え、当事者・家族は周囲のいじめなどととらえてしまいがちです。この認識のずれは、やがて、当事者・家族の行き場を奪うことにもなります。

 私たちノーサイドのメンバーの多くも、こういった環境の中で長い時間を過ごしてきました。しかし、現在の医療機関では、家族に対し障害が残る可能性があることの説明はされていると思います。受傷後半年間は急激に回復するといわれています。早期に当事者へのリハビリ開始と同時に家族も障害に対する知識を得たり、対応方法を学ぶなどの支援を受ける必要性を強く感じます。とは言っても、今まで築いてきた生活や人生設計を突然狂わされることなど、そう簡単に受け入れられません。「高次脳機能障害になりました」「はい、わかりました」などと簡単なことではないのです。

 理解できない家族を責めないでください。家族が真に障害を理解し、受け入れるためには、さまざまな葛かっ藤とうを繰り返し、少しずつ受け入れていくのです。何でも無い言葉に反応し、涙を流したり、怒りを覚えたり…。こういった家族の心情を理解しながら支援していただきたいと思います。家族も事故や病気以前の当事者を一番よく知っているのですから、誰も何もしてくれないと嘆くばかりでなく、知識と対応方法を学ぶ努力も必要です。意識を持った支援者たちも動き始めています。私たち、家族・当事者自身が必要とする支援を発信することで、周囲も変わり、支援も増えていくはずです(ホームページで随時メール相談を実施中です)。











(上毛新聞 2010年3月15日掲載)