視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
関東森林管理局赤谷森林環境保全ふれあいセンター所長  
                               田中 直哉
(沼田市柳町) 



【略歴】大阪府堺市出身。東京農工大農学部環境保護学科卒。農林水産省林野庁に入り、大臣官房企画室、農村振興局などを経て、2008年4月から現職。



旧三国街道を歩く



◎歴史知り地域活性化を




 私が住んでいる沼田市近辺は、中世に盤ばんきょ踞した名族・沼田氏の興亡、戦国時代における上杉・北条・武田氏の「上州三国志」や真田一族の台頭など歴史の話題にこと欠きません。市内には沼田氏11代・沼田泰輝が建立した沼田台地最古の神社・原田神明宮が幕岩城跡にありますが、御嶽山普寛霊神の石碑もあり、江戸から明治にかけて流行した御嶽信仰なども垣間見ることができます。

 そんなわけで歴史好きの私は、もっと上毛地方の歴史を知りたいと思い、休日を利用し、司馬遼太郎の「街道をゆく」よろしく、旧三国街道の群馬県側を歩いてみました。高崎の旧中山道との分岐点から出発し、庚申塚にあいさつしながら渋川宿、中山宿を過ぎ、金比羅峠では、二代目になった塩原太助の「馬つなぎの松」に思いをはせ、「こんな所にこんな物が」と多くの新たな発見がありました。歩いてみて感じたことは、あと数年ほっておくと完全に読めなくなってしまう石碑や放置されている史跡が散見され、歴史的由来を語れる語り部がいらっしゃるのだろうか、地域資源や学校教育のプログラムとして活用できないだろうかと、正直もったいない気がしました。

 赤谷プロジェクトでは、国有林「赤谷の森」において、地域協議会、財団法人・日本自然保護協会、林野庁が協働で「生物多様性の復元」と「持続的な地域づくり」を目標に活動しています。この中で、豊かな自然環境や歴史的遺産を地域振興に活用するため、地域協議会が中心となって「旧三国街道フットパス網計画」などの検討を進めています。活動を通じて、地域振興のためには、やはり、まず自分自身が地域の歴史をよく知ることにより、埋もれている地域資源の掘り起こし・再評価を図ることが、地域の活性化のため重要と思うに至りました。

 なお、ここでいう歴史とは、自分の父祖の生き様、地域との関係性を学ぶという幅広い意味でとらえています。また、歴史を知ることは、現在・過去・未来の座標軸における自分自身の立ち位置を明確にし、自分と社会全体との関係性を再認識することにもつながり、生きていく上での自信にもなると考えます。

 私は大阪出身ですが、小中学校の歴史の授業で戦国時代になると、先生も興奮してきて、「関ケ原で小早川秀秋が裏切らへんかったら、今ごろは大阪が日本の首都やったのに」などと大いに盛り上がり、非常に楽しかった思い出があります。そこで、まず子供たちにおじいさん、おばあさんの人生についての語り聞かせから始めてみてはいかがでしょうか。きっと、子供たちの目に輝きが生まれ、遠くない将来に地域の活性化にも役立っていくことと思います。








(上毛新聞 2010年3月18日掲載)