視点 オピニオン21
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東京福祉大学大学院教授  手島 茂樹(前橋市下佐鳥町) 




【略歴】日本大大学院文学研究科心理学専攻博士課程。育英短大教授を経て現職。専門は臨床心理学。大学院にて臨床心理士を養成。日本パーソナリティー学会理事。



心との付き合い方



◎本当の望みを見つけて




 自分自身をそのままに認めてくれる人がいる、それは生きる活力となる。従って、お互いに傾聴し合う関係をもつことが人生には重要となる。しかし、よき友だちに支えられなくてもできることはないか、それが今回のテーマであり、自分自身による心のコントロール法である。

 このほど終了した冬季オリンピックも各選手の身体の調整はもとより、意欲を維持し、試合で最高潮にもっていくよう心までもコントロールしている姿には感動したものである。

 しかし、われわれ一般人にはその調整は難しいのが実態である。頭ではわかってはいても、統制がうまくいかない。

 高校2年生のA子が母親に付き添われ大学の相談室を訪れてきた。聞けばリストカットの常習者であり、足にはその傷跡が大きく残っていて、今度はタトゥーまで入れたいと言うので、母親が心配になり連れて来たという。

 「どんな時に切りたくなるの?」「自己嫌悪に陥った時です」「どんなことで自己嫌悪になるの?」「試験が近づいてきても、勉強をする気にならず、皆に負けそうで情けない時です」「切るとどうなるの?」「生きる勇気がわいてきます。こんなに痛いことでも自分は我慢している、案外、すごい、そう思うとすっきりします」「でも、切りすぎて命まで、とは考えないの?」「考えます。でも、自己嫌悪に陥ると知らないうちにやっているのです」

 このリストカットという不可解な行動も、よく聞けばこのように意味のある行為であることがわかる。一言で述べるなら、自分自身への肯定感、それが手に入れたいことであった。

 では、この不可解な生き方を止め、もっとよい生き方にするには、どうしたらよいのか。

 自己嫌悪という感情の出所を知ることも一つである。どうしても成績で友人に勝たなきゃと考えるからつらくなりすぎるのである。「私は私のベストをつくそう」でちょうどよい。これはエリスの論理療法の骨子であるが、感情はその人の考え方の癖から生じるとしている。従って、厄介な感情には考え方を正すことを求めていく。

 この生徒の場合も完全癖に気づいてもらい、それを正し、少しずつ勉強を始めたら、できない自分に驚きながらも、不可解な行動はやみつつある。

 できれば、問題は抱え込まないで、この人なら解決してくれる、そう思える人に全部話すことである。しかし、それができないなら、感情の出所としての考え方を、このように見つけ正すことから始めてみる、それも心と折り合うコツと思う。







(上毛新聞 2010年3月23日掲載)