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対話法研究所長  浅野 良雄(桐生市三吉町) 




【略歴】東京福祉大大学院修了。群馬大工学部卒業後に電機メーカーで自動車関連部品の研究開発。その後、コミュニケーションの指導や講演活動などを行っている。



確認重視の対話法



◎医療面接の新技法に




 確認行為を重視した「対話法」は、あらゆる対人関係で役立つが、数年前に、私が、東京都内の、ある医系大学の医療コミュニケーションの授業で教え始めたこともあり、医療教育の分野で広がりつつある。

 医療コミュニケーションでは、医師・薬剤師・看護師などの医療者が、患者の気持ちに配慮しながら必要な情報を収集する医療面接が中心になる。さまざまな事情により、数年前から、正規の授業の中に医療面接の実習を導入する大学が増えてきた。そこでは、患者の心理を理解するための核心となる「傾聴」や「共感」のコツとして「繰り返し」や「おうむ返し」が指導されることが多い。しかし、この現状に疑問をもつ人もいる。私も、その一人である。たとえば、患者が、「最近、よく眠れないんです」と言ったときに、「最近、眠れないんですね」と言うのが繰り返しである。確かに、相手の話を聞いている証しにはなるが、これだけでは会話が深まりにくい。さらに、双方に不快感が生じる可能性も指摘されている。

 そこで、先に述べた大学の教員が、この問題を解決する方法はないものかとインターネットで探すうちに、私が考案した「対話法」と「確認型応答」にたどり着いて、その後、大学の実習で採用するに至ったのである。確認型応答とは、「相手が言いたいことの要点を、想像や推測を交えて聞き取り、その理解が合っているかどうかを相手に確かめること」である。先ほどの例で言うなら、「それはつらいですね」や「心配な事でもあるようですね」が確認型応答である。そして、これが合っていれば、「はい、そうです」、違っていれば、「実は、○○です」と続き、いずれにしても話が展開していく。このような利点から、確認型応答、略して確認は、従来からある、繰り返しやおうむ返しに代わりうる技法として認められつつある。

 ところで、医療面接は、理論を知っても、すぐに実践できるものではない。そこで、近年、患者役として実習の相手をする「模擬患者」が活躍している。実は私も、都内にある複数の医系大学で、ボランティアの模擬患者としても活動している。模擬患者の主な役割は、大学の教員などが作成した症例のシナリオに書かれている症状や生活習慣などを暗記して、患者になりきって演技することである。また、面接の終了後に、医療者役の学生の態度や言葉遣いについて、患者役として感じたことを伝えるのも役割の一つである。模擬患者の存在は、多様な患者の気持ちに配慮できる医療者を育てる上で、今後、重要になってくるであろう。それを受けて、群馬県内でも独自に模擬患者を養成しようという動きが始まった。私も、自らの経験を生かして、この計画の推進に協力している。






(上毛新聞 2010年4月6日掲載)