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いせさきFM放送取締役放送局長  高橋 忠文(伊勢崎市連取町) 




【略歴】東京工科大メディア学部卒。大阪の証券会社社員、FMたまむら放送局長を経て2008年11月、いせさきFM放送の開局と同時に取締役放送局長に就任。



ワンマンDJスタイル



◎地域情報発信のために




 先日、当社の放送にゲスト出演していただいた方から「パーソナリティーさん一人で放送の機材操作からおしゃべりまでやっているの。すごいわねー」という言葉をいただいた。私自身、もう当たり前のように感じていたがあらためて言われて気付いた。いせさきFMでは「ワンマンディージェイスタイル」という、一人のパーソナリティーが放送にかかわる音楽をかけ、バックミュージックを操作し、同時にしゃべるという方法をとっている。

 通常ラジオ番組制作にかかわる人というのは、番組の構成や演出・企画をするディレクター、番組の内容を細かく考える構成作家、音楽をかけ、バックミュージックを操作するミキサーマン、そしてしゃべりを担当するパーソナリティーの計4人が最低でも必要と言われている。さらに欲をいえば、これに雑務をこなすADさんがいる。しかし、いせさきFMではこれらの計4人の仕事を一人でこなして放送を行っているのだ。だから、お言葉をいただいたゲストの方はそういった知識が多少なりともあり、感嘆したのだと思う。

 この、4人分の仕事を一人でこなして放送までを責任もって行うスタイル、ワンマンディージェイスタイルはもともとはアメリカの放送局では一般的に確立しているらしい。だが、日本の放送局は経済的に裕福だった時代に、より質の良いものを制作するために多くの人材を投入した。以来、4人1チームのスタイルが一般的になったようだ。

 では、なぜこういったスタイルをとって放送を行っているかと言うと、一つにコミュニティーFM放送局は運営が難しく、多くの人材をかかえられないという理由がある。だが、一番の理由は既存のラジオ局とはコンセプトが異なるという点だ。限定地域情報の発信がメーンのコミュニティーFMのあり方を理解し、動ける人材が少ないのである。

 以前、某キー局の放送経験者を雇用した際、驚くことがあった。それは、取材に行ってくれと頼んだら、「取材は今までしたことがなくできません」と答えたのである。これは、某キー局では業務が細分化しており、取材する人材が別にいたことによるものだろうと考えられる。しかし、コミュニティーFMではその考え方を変える柔軟さがないと、局が混乱してしまう。

 そう考えるとコミュニティーFM放送局というのは同じラジオでありながら既存のスタイルの延長線上にあるメディアではなく、まったく新しく誕生したニューメディアといえるのではないだろうか。現在、群馬県内にはコミュニティーFM放送局が6局ある。いずれの局も放送スタイル、情報収集や効率的な運営の仕方など挙げればきりがないほど地域に密着した番組を創造・制作しているのである。






(上毛新聞 2010年4月7日掲載)