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公認会計士・税理士  並木 安生(東京都中野区) 




【略歴】富岡市出身。慶応大経済学部卒。大手監査法人などを経て2008年から都内で会計税務事務所を運営。国内外のM&A(企業の合併・買収)の支援にも従事する。



効果的な相続税対策とは



◎税法を駆使し合理的に




 最近、群馬県内でも相続税対策を意識し始めた方々がより多くなってきた感がある。かつてない経済不況の中、個人資産の目減りをできるだけ避けたいとする動機からであろう。

 被相続人が特に土地を保有している場合、この相続税対策の検討にあたっては専門的な知識が必要とされる。相続税額とは大まかにいうと、相続財産の評価額から債務残高を差し引いた額に累進税率を乗じて算出するため、税法を駆使することで土地の評価額を合理的に低め納税をいかに抑えるかという点が、節税の観点からは重要となるためである。

 また、土地を保有し続ける限り固定資産税の負担が未来永劫続くこと、並びに土地は金融資産と比べると速やかに換金し難いため、納税資金の確保に手間がかかること等が、土地の相続税対策の必要性を高める一因ともなっている。

 土地の相続税対策にかかる手法の代表例として、土地の収益物件化が挙げられる。例えば、遊休地の上に賃貸物件を建てると、土地の転用が狭められるという趣旨から相続税額の計算の際に土地評価額を低くすることができる。

 また、もし建設資金が手元にない場合でも、金融機関等からの借り入れにより賃貸物件を建てることもよく見受けられる伝統的な手法である。このケースの下では、先述した土地評価額の低減効果が生じることに加え、相続発生時の借入残高次第では相続財産から差し引く債務がその分多くなるため、相続税額が相応に低まることになる。

 さらには、収益物件化により十分な資金が得られれば、固定資産税や相続税の納税に充当することができるため、一挙両得の手法であるとも考えられる。

 しかし、何ごとにも表裏があるという意味ではこの手法のデメリットにも目を向けたい。収益物件から得た利益は不動産所得として所得税の対象となり、さらには手元に残った資金も土地と同様に将来の相続税の対象となるため、さほど現金が残らないこともありえる。この場合、収益物件を生前贈与し、賃貸収入の受取人を将来の相続人とすることで被相続人に財産がたまらないようにしておくこと、あるいは賃貸収入自体を少しずつ生前贈与すること等の対応策を適宜実施する必要もあろう。また、入居者が当初の予想通りに募れない場合、債務の返済負担がのし掛かり、本末転倒の結果に陥ってしまう。この場合は、物件管理会社等が最低賃料を保証してくれるような仕組みであればある程度のリスク回避策にもなろう。

 土地の相続税対策を行う際は、不動産の保有から生じるすべての資金の流れやリスクに気を配りつつ、現金残高を最大限にできるようあらかじめ検討されたい。







(上毛新聞 2010年4月11日掲載)