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新島学園短大准教授  山下 智子(高崎市飯塚町) 



【略歴】福島県出身。同志社大大学院神学研究科修了。日本基督教団正教師。サンフランシスコ神学校留学、会津若松教会牧師などを経て、2008年春から現職。



イースターのもつ意味



◎絶望を希望に変える力



 この春、東京ディズニーランドでは初めてのイースターイベントを行っている。イースターって何? と思う方も多いだろう。イースターはイエス・キリストの復活を祝う日で、キリスト教の暦ではクリスマスとならぶ重要な行事だが、不思議なことに日本ではあまり知られていない。東京ディズニーランドでもクリスマスイベントは1983年の開園当時から行っているが、イースターはそれに遅れること27年である。

 しかし日本の私たちにとってイースターに込められた意味は、考えようによってはクリスマス以上に親しみやすいものであるように思う。なぜならば、十字架にかけられて死んだキリストが復活した出来事は、目には見えないけれど神さまが私たちの世界に優しく力強く働きかけてくださり、死が命に、絶望が希望に変えられることを示しており、それはちょうどどんなに冬が長く厳しくすべての命が死に絶えたように見えても、やがて必ず命の輝きに満ちた暖かな春がめぐってくることと重なり合うからだ。死んだようになって冬眠していた動物は目を覚まして子育てを始め、枯れたようになって北風にさらされていた植物は芽を出して花を咲かせる。

 こうした春の喜びは冬がある国に暮らしてこそ深く共感できるものだ。実際、日本には春の喜びをみんなで分かち合うと素晴らしいお花見の文化もある。この時期、お花見を楽しみに日本を訪れる観光客も多いらしい。もちろん海外でも、春に花を愛めでることも、外でピクニックをすることもあるが、この二つを同時に、しかもみんなが今か今かと心待ちにして大々的に行うというというところが日本ならではだ。

 しかし、私たちが大好きな桜の花もこのまま温暖化が進めば100年後には咲かなくなるかもしれないという。厳しい寒さの中でこそ、静かに確かに新しい命の芽がはぐくまれるという事実には大いに考えさせられる。冬の寒さなどないほうが良い、人生のつらさなどないほうが良いと思うが、寒さやつらさにもちゃんと意味があり、自分たちの快適ばかり求めるとかえって自分たちを苦しめることになるのかもしれない。私たちが無力感に襲われ、打ちのめされるときにこそ、人間の力を超えた不思議な力が復活の時に向かい静かに確かに働いているのだから。

 この美しい季節にぜひ、親しい人たちと春の喜びを感じ楽しみながら、それぞれに人生の冬と呼びたい大変なこともあるが、終わらない冬はないことを確認しあい、希望を持って新たに歩み出したいと願う。







(上毛新聞 2010年4月16日掲載)