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県鳥獣被害対策支援センター所長  久保寺 健夫(高崎市井出町) 



【略歴】1970年に県庁に入庁、自然環境課、蚕糸園芸課などで勤務。2010年4月から現職。人や農作物に害をもたらす鳥獣の対策を担当している。



ニホンジカの食害



◎詳細な調査で対応策を



 金網で囲われていたシラネアオイはニホンジカの食害から守らたれが、ヒメシャジンはほとんどなくなり、岩棚の先に食べ残されたものがひっそりと咲いていた。その他の植物は葉に有毒成分があり、マルバダケブキ、コバイケソウは食べられることなく群落を作っていた。

 これは、渋川商労事務所に勤務していた1996年当時、シラネアオイ復元作業で登った日光白根山・弥陀が池周辺の景色である。

 82年、いわゆる「57豪雪」時、足尾銅山跡地では、まだ生息数が少ないとされていたニホンジカを守るため、猟友会・保護団体が給餌活動を行った。しかしその後約10年で、群馬県北東部地域では樹木の皮はぎなどの食害が問題となるほどに生息頭数を増やしていた。県の狩猟統計では、65年から82年までは100頭以下の捕獲頭数だったが、88年には299頭、98年には990頭、2008年には3000頭を大きく超えるまで増え、捕獲地点も比較的生息数が少ないとされた吾妻地域などに拡大してきている。

 県内に生息するニホンジカは、栃木県と群馬県北東部地域を生息域とする日光利根地域個体群と、長野県・埼玉県・群馬県南西部に生息する関東山地地域個体群の二つの系統に分けられている。

 これまで、県のニホンジカ対策は、被害状況・推定生息頭数から、北東部地域を中心に考えられてきた。

 この地域では90年ごろから急激に農作物被害が増えだしたため、特に片品村、旧利根村で山際と畑の間に高さ2メートルの金網柵による侵入防止を図る対策が始まり、昭和村赤城高原地区まで70キロメートル以上にわたり柵が設置されている。柵の効果と捕獲頭数の増加もあり、設置された地域では農作物被害は減少傾向にある。

 しかし、この柵の南側に位置する赤城山および、北西部に位置するみなかみ町などへ生息域を拡大させている。赤城山では食害の影響もあり、クマザサなど、森林内の下層植生の衰退が始まっており、このままの状態が続けば土壌流失が起こることが予想される。このため、生息状況植生などの詳細な調査を実施し、早急に対応策を検討すべきと考えている。

 県南西部地域に生息する関東山地地域個体群でも、生息域、生息頭数とも急激に拡大している。隣接する長野県での推定生息頭数(関東山地、八ケ岳地域個体群)は2万3000頭とされており、その生息域は県北東部に向け拡大、その最前線は浅間山麓ろくに達したといわれている。

 すでに県内でも浅間牧場で生息が確認されているが、多野・甘楽では、山沿いに東に向かって急激に生息域を広げており、吾妻西部を含めたこの地域での被害対策も、緊急な課題である。







(上毛新聞 2010年4月17日掲載)