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前・前橋地方気象台長  元木 敏博(東京都板橋区) 



【略歴】青森県生まれ。気象大学校卒。札幌や奄美大島の気象官署、気象衛星センターに勤務。熊本地方気象台長などを経て、10年3月まで前橋地方気象台長を務めた。



土砂災害への対応



◎大切な危機感の共有



 土砂災害警戒情報は、大雨による土砂災害発生の危険度が高まったとき、市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の自主避難の参考となるよう、都道府県と気象庁が共同で発表する防災気象情報です。国土交通省は、2004年の深刻な豪雨災害での課題を踏まえ、土砂災害警戒情報について「市町村、報道機関等への提供を全国で実施」と「早期運用開始」の方針を打ち出しました。

 群馬県内では、07年6月1日から県と前橋地方気象台が共同で土砂災害警戒情報の発表を開始しました。対象とする土砂災害は、降雨から予測可能な大雨による土石流と集中して発生するがけ崩れです。技術的に予測が困難な地すべり等は発表対象ではありません。

 群馬県の地形は、南東側に開けています。台風の接近に伴って、関東の東海上や南海上から雨雲や湿った気流の流入が続く場合には、北部や西部の山間部では大雨となり、土砂災害の危険度が高まります。カスリーン台風は、1947年9月14日から15日にかけて潮岬の南海上を発達しながら北上し関東地方の沿岸部を通過したため、このような状態が続きました。台風は上陸こそしませんでしたが、大規模な土砂災害が旧大胡町や旧六合村などの北部や西部の山間部で発生しました。

 2007年の台風9号は、9月6日から7日にかけて東経140度線に沿って北上し、東日本を縦断しました。これに対して、前日の9月5日午後9時30分に県災害警戒本部が設置され、同45分には県として初めての県土砂災害警戒情報を藤岡市に対して発表しました。以降、第20号まで最大で16市町村に対して発表しました。最近2年間は、のべ日数は8日間、対象市町村の総計は15で、この間の人的被害ゼロに貢献できたものと思われます。

 群馬県では、すでに約半分の市町村で土砂災害警戒情報を経験しています。市町村との懇談では、この情報へ高い関心が寄せられ、自主防災組織や区長会の強化が話題となりました。自主防災組織のリーダーや区長さんは、日ごろから住民の方々と接しており、危険個所、避難場所、避難経路を確認するなど、防災活動を支えています。今後、防災気象情報が早期避難などで効果を上げるためには、自主防災組織のリーダーや区長さんへ土砂災害警戒情報などの見方の説明を通して、災害発生の危険度が高まったときに気象台や防災関係機関が持つ危機感を共有していただくことが大切になると考えます。

 気象台では、大雨により重大な災害の恐れがある場合には、まず大雨警報を発表して住民の避難準備に必要な時間を確保し、さらに、土砂災害の危険度が高まった場合に土砂災害警戒情報を発表します。







(上毛新聞 2010年4月27日掲載)