視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構、
群馬障害者職業センター主任障害者職業カウンセラー  
                             中村 志美
(前橋市天川大島町) 



【略歴】日本女子大卒。1994年に就職し、北海道と千葉のセンターや国立職業リハビリテーションセンターなどで障害者の就労支援に従事。2009年4月から現職。



障害者の雇用



◎大切なきっかけづくり



 職業センターでは、障害者雇用の経験をもつ企業担当者を招き、具体的な取り組みを紹介するワークショップを開催している。参加いただくのは、今後障害者の採用を考えている企業の方で、採用の基準や研修の方法、労働条件などについて意見交換が行われる。先日行ったワークショップは、私自身とても感銘を受けた。というのも、その企業は、障害のある社員を職場の戦力として活躍できるようにという考えを元に、社内の仕組みや体制を積極的に整えていたからだ。

 現在、一般の民間企業は、その常用労働者数の1・8%以上の障害者を雇用しなければいけないという、法定雇用率が定められていることはすでに知られていることだと思う。しかし、企業の中には、「障害のある方が働けるのだろうか」と、採用をちゅうちょされる所も少なくないように思う。一昨年からの厳しい経済状況下ではなおさらだとも思っている。

 事業主の方の話をうかがっていると、障害者雇用の最初の一歩はなかなか踏み出しにくいのだなと、感じる。「障害のある方との接点がなくて、よく分からないのが実情なんです」といった声をよく耳にし、また、今は雇用率を大きく上回る企業の中にも、雇用のきっかけが「雇用率の改善を指摘されたので」という企業が多くあるからだ。

 しかし、障害者の雇用はここ数年で増え続けていて、2009年6月に行われた県内の障害者雇用の状況調査でも、前年度と比べて上昇し、雇用率は1・56%になった。特に、従業員数が1000人以上の規模の企業で雇用が増えている。障害のある方の雇用をこれからも進めるためには、企業が障害者を雇い始めるきっかけづくりに力を入れることが大切だと思っている。それには、働いている障害のある方がたくさんいることを、多くの企業、人々に知ってもらうことが始めの第一歩になると思うのだ。

 今ある会社の仕事や仕組みをそのままに、障害のある方を雇用するには限界があるだろうが、さまざまな工夫をすることで、より多くの人が働く機会が増えると思うのだ。冒頭の企業では、接客業務は苦手と考えられてきた精神障害の方を店舗スタッフとして採用している。「簡単な接客業務」を職務として切り出す工夫をしたのだという。

 このような具体的な事例は、ハローワークの窓口で紹介してもらうことができる。職業センターでも、冒頭のワークショップなどの取り組みを通して、企業の「よく分からないのが実情なんです」という声が少なくなるよう、始めの一歩のお手伝いをしていきたい。






(上毛新聞 2010年5月4日掲載)