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NPO法人自然塾寺子屋理事長  矢島 亮一(高崎市中尾町) 



【略歴】宇都宮大大学院修士課程修了。青年海外協力隊員としてパナマで2年間活動し、帰国後に自然塾寺子屋を立ち上げた。2003年にNPO法人認証を受けて現職。


第6次産業化



◎「つなぐ力」で支援活動




 造語として最近よく聞く言葉に第6次産業という言葉があります(JA総研所長・今村奈良臣氏提唱)。1次産業(農林水産物の生産)と2次産業(加工)と3次産業(流通、サービス)を足した新しい形の複合型農業経営のことだそうです。

 現在の日本の農産物生産価格は、労働賃金水準に比べるとあまりにも安く、素材として出荷するだけでは儲もうかりにくい構造になっています。そのひとつの打開策として進められているのが、企業的発想で大規模化、合理化してコストを圧縮するという方向性です。最近の農業ブームと呼ばれる流れの中では、そうし企業家的センスを生かした経営者がマスコミにクローズアップされ始めています。

 一方の6次産業化は、コスト圧縮による手取りのアップもさることながら、むしろ生産物の付加価値を上げ、取り分を高めることで収益を増やそうという考えです。つまり、自分で育てた農産物を自分で加工品にして、自分の才覚で売ることで、外部に委ねるコストがなくなり、自分で値段を決めることができます。たとえば、千葉県と東京都を結ぶJR総武線にも「かつぎ屋さん」と呼ばれる行商の女性を見かけることがあります。自分や家族が育てた野菜を、電車に乗って東京の住宅街まで売りに行きます。自分の背丈以上の大きなかごを背負い、その中には漬物や梅干し、もちなどをも入っていて、これが非常に人気があり、ばかにならない稼ぎになるそうです。こうしたアイデアで子供を大学までやった人がたくさんいるそうです。瀬戸内では、同じように漁師のおかあさんがリヤカーで魚を引き売りし、その場で刺し身にしているそうです。

 6次産業化というのは、名前こそ新しいのですが、実は、アイデア自体は昔からあったのです。つまり、生きるための知恵だったのです。とはいえ、小さな農家が、自力で販売までこぎつけるのは容易なことではありません。栽培はプロでも、売ることに関してはほとんどの人がシロウトです。6次産業化や直販に強い興味がありながら、ホームページすら作れていない生産者はたくさんいます。

 われわれNPOとして、こうした農家や若い起業家にとって苦手な、2次化・3次化の部分を支援・代行する、「市民情報発信、交流」のような活動も視野に入れています。「質の高い商品なのに、存在が知られていない」「こんなよい素材があるのに、組みあわせに必要な素材を作っているパートナーが見つからないために加工品化ができない」「人気はあるのに人手が足りないため売るチャンスを逃している」―といった課題を、NPO組織が得意とする「つなぐ力」「プレゼンテーション力」で解決していこうと考えています。それがNPOのミッションだから。






(上毛新聞 2010年5月13日掲載)