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実践女子大教授  大久保 洋子(東京都江戸川区) 



【略歴】富岡市出身。実践女子大、同大学院卒業。修士。管理栄養士。都立高校、文教大短大部、目白大短大部を経て実践女子大教授。学部長。専門は調理学、食文化研究。


緑茶考



◎独自の文化として発展




 今年も早6月を迎えようとしています。気候の寒暖の変動がことのほか激しく季節の移り変わりに異変がおこっている状況ですが、5月に入ると芝生は青々と芽吹き、木々の若葉も一斉にさわやかさをわれわれにプレゼントしています。

 そして、「♪夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る…」というメロディーを懐かしく思い出し、気持ちが晴れやかになります。

 ゼミの学生たちに日本の茶の歴史のうんちくを語って、お茶の入れ方をおさらいし、社会人として巣立ちが近い彼女たちに「お茶くみなんて」から「私、お茶入れます」の気持ちにさせようというもくろみを企てました。ところが最近は自動給水(湯)機のみならず、自動でコーヒー、紅茶や緑茶も入れられるので、お茶くみという言葉も死語になりつつあるようです。でも、しつこいようですが緑茶は葉に応じて温度、むらし時間など配慮して入れたときの味の違いを知ってほしいと思うのです。

 日本の茶は中国からもたらされたものですが、独自の発展・展開をします。日本での中国茶といえば半発酵のウーロン茶や鉄観音茶、発酵茶の紅茶(キーモンが有名)が知られており、特にウーロン茶は現在の日本では緑茶をしのぐ勢いで普及しています。

 緑茶は室町時代に茶の湯として独自の文化を築き発展し、茶葉の生産も宇治茶をはじめ有名産地が多数存在します。北限は埼玉県の狭山茶があげられることが多いようですが、新潟の村上茶もあります。飲み方としては抹茶、煎茶(せんちゃ)の2通りがあり、抹茶はたてる茶(Whipped Tea)で、煎茶は煮だす茶(Boiled Tea)と淹(い)れる茶(Steeped Tea)が考えられ、現在われわれは煎茶を淹れる茶として飲むことがほとんどと思われます。麦茶などは煮だす茶として飲まれています。

 茶道に用いられる和菓子は主菓子、干菓子ともに日本の季節感、文学的素養、原料の精査、器などの諸条件を付加して、茶と菓子を観賞する姿勢とあいまって作られています。茶道が発達した地域、たとえば京都を筆頭に名古屋、金沢、松江、新潟、東京などに特徴ある銘菓が生まれています。一方煎茶道も江戸時代に始まり、明治期に盛んになり現在に続いています。

 現在の若い人たちはコーヒーや紅茶を好む傾向にありますが、健康志向も手伝って緑茶人口も増えているようです。煎茶の出しがらは、たたみにまいて箒(ほうき)で掃き清めたものです(掃除機の世界になって影をひそめましたが)。最近は出しがらを乾燥して袋に入れ脱臭剤としての利用や、油でいためて甘辛に調味をして食べることを推奨している動きもあります。日本文化として継承されてきた緑茶文化を大切にしたいものです。







(上毛新聞 2010年5月30日掲載)