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対話法研究所長  浅野 良雄(桐生市三吉町) 



【略歴】東京福祉大大学院修了。群馬大工学部卒業後に電機メーカーで自動車関連部品の研究開発。その後、コミュニケーションの指導や講演活動などを行っている。



誤解招く言葉の多義性



◎応答を適切に使い分け




 ある会合での出来事である。私の発言に対して、一人のひとから、「その考え方は分かりません」と言われた。もう一度詳しく説明したが、それでも、「分かりません」と言う。不思議に思いつつ言葉を交わすうちに、そのひとは、私の考えが「伝わっていない」のではなく、私の考えに「同意や賛同ができない」という意味で「分からない」と言っていたことが分かってきた。つまり、「分からない」という言葉を、それぞれが異なる意味で使っていたのである。これでは、いくら説明しても「分からない」はずである。

 電話でのカウンセリングの中で、こんなことがあった。クライアントが、「先生、もっと『きいて』ください」と何度も言うので、真剣に傾聴を続けたが、満足した様子が伝わってこない。おかしいなと思い、「先程から真剣に聞いていますが、どうもご不満のようですね」と、相手の気持ちを「確認」してみた。すると、「きいているだけでなくて、質問もしてほしいんです」との応え。クライアントの「きいて」は「尋ねて」という意味だったのである。

 ここで紹介した事例は極端かもしれない。しかし、一つの言葉が、私たちが思っている以上に多様な意味を持つのは確かである。これを言葉の「多義性」と言うが、日常の会話の中で、お互いの話がかみ合わない時、こんなところに原因があることが多い。

 私たちは、普段、無意識のうちに、自分の言葉が相手に正確に伝わっていて、逆に、相手の言葉を正確に受け取っていると信じている。しかし、時々、先に紹介したような事態が発生する。従って、「何かおかしいな」と感じた時には、相手の真意を自分が正確に理解しているかどうかを確かめる行為が必要である。それを私は「確認型応答」と呼んでいる。この応答には、誤解を予防しつつ信頼関係を維持する働きがある。もちろん、お互いがこの応答だけをしていては話が先に進まない。一方、確認型応答以外の応答、つまり、自分の考えや気持ちを言うことを「反応型応答」と呼ぶ。普段の会話は、主に反応型応答で行われる。しかし、状況によっては想定外の結果を生じるのが、この応答の特徴である。たとえば、相手の話に対して、よかれと思って言った賛辞や意見が、意外にも相手を不快にさせてしまうことがあるのは、これらが反応型応答だからである。つまり、2種類の応答は、どちらが良いとか悪いというのではなく、適切な使い分けが重要なのである。

 私は、これらの応答の性質を研究して、結果を論文などの形で発表してきた。今年の3月には、アメリカで開かれた国際学会でも、理論を紹介した。今月には、医学教育関係の学会誌に、論文が掲載されることになっている。






(上毛新聞 2010年6月2日掲載)