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公認会計士・税理士  並木 安生(東京都中野区) 



【略歴】富岡市出身。慶応大経済学部卒。大手監査法人などを経て2008年から都内で会計税務事務所を運営。国内外のM&A(企業の合併・買収)の支援にも従事する。


利益を生む会計とは



◎真の姿の決算書作成を




 3月決算の会社は本決算の作業が一段落したころだろうか。中堅規模以上の会社であれば、この本決算だけではなく各月末ごとに決算を締め、業績や財務の状態を適時に把握するという管理方法を採っているはずであるが、零細企業の場合はそれほど細かい経理は行っておらず、年度末に顧問税理士がやって来て決算書が一夜城のごとく作成されることも少なくないであろう。

 そもそも決算書とは大まかにいうと、会社が資産や債務を現時点でどれだけ有しているかを表す貸借対照表、一定期間内にいくら稼いだかを示す損益計算書を指すことから、第一義的には過去における会社の成績を把握するための資料という意味合いをもつ。しかし、決算書の真価は、この資料を活用して将来の会社業績を予測し、今後の企業経営に役立たせる点にある。

 そのためには、決算作業の頻度を最低でも月1回とすることが大前提である。会社の置かれている状況の変化を素早く察知し、事業の軌道修正を行ったり、あるいは現状の方針で据え置く等といった判断を行うためには、年1回の決算作業ではあまりにも足りない。自社の状態を客観的に把握し、大事に至る前に欠点を補ったり、その一方で成長が見込める分野に対して人材や資金を瞬時に投入するためには、最新の決算書を常に手元に置くことが必須であるはずだ。究極的には日次での決算書作成が望まれる。

 ところで、決算にあたって粉飾を行うとどうなるか。自社の経営状態を忠実に表してくれるはずの決算書が不正確となるため、当然に経営上の正しいかじ取りができなくなる。二重帳簿を作って、真実の姿を別個に管理していけば実害はないという声もあろう。しかし、自分を甘やかす存在があると、どうしても厳しい現実から目をそらしてしまうのが人間の性(さが)である。粉飾決算で作り上げた虚構を無理やり現実のものとするために、さらなるうその上塗りをしてしまい、理想とされる経営の姿からどんどん遠ざかることも容易に想像できる。

 また税金面からいうと、利益の水増しをする分だけ余計に税金を払うことになり、自社の実力を上回る資金負担が重く圧し掛かる。借り入れにより納税資金を捻出(ねんしゅつ)するというケースもしばしば見受けられる。

 ただ現実としては、必ずしも粉飾決算とまでは言えないまでも、多かれ少なかれ決算操作を行いたいとする誘惑に駆られる企業は少なくないであろう。とすると、真の姿の決算書を適時に作成して経営判断を行うだけでも、企業としての優位性が認められるのではないだろうか。安きに流れまいとする心の強さがあれば、決算を活用して利益をあげること自体、難しくない話なのかもしれない。







(上毛新聞 2010年6月8日掲載)