視点 オピニオン21
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バイオリニスト  小田原 由美(榛東村新井) 



【略歴】バイオリニスト。岡山県出身。国立音楽大卒業。元群馬交響楽団団員。室内オーケストラ「カメラータ ジオン」代表。「若い芽を育てる会」理事。



感動を呼ぶ音楽



◎心の中の花は一生の宝




 菖蒲(しょうぶ)やポピーの花の美しい5月に、伝説のチェリスト、クリスチーヌ・ワレフスカが来日し、群馬でも演奏しました。その情熱的で表現豊かな演奏は、お客さまはもとより、共演した「カメラータ ジオン」のメンバーにも圧倒的な感動を与えました。

 ワレフスカは、若き日にアメリカやヨーロッパで大活躍していましたが、芸術よりもビジネスが優先する音楽業界に疑問を感じていたころ結婚し、アルゼンチンに定住。そこで自由に演奏活動を続けていたそうです。音楽の流れを大切に、情熱的に歌い上げる演奏スタイルで、「過去の偉大な作曲家や演奏家たちの『心』を忘れないでほしい」と語ります。また、ワレフスカの父親は、「音楽によって人を喜ばせるのがおまえの義務だから、そのことを忘れてはいけない」と言いのこしたそうです。

 コンサートの翌日は、貴重な休日。榛東村のポピー畑で花に囲まれて写真を撮り、水沢うどんを堪能、水沢観音にも寄り、仕上げは伊香保温泉でリフレッシュ。日本ツアー前半の最後を飾る休日を思い切り楽しんで過ごし、再共演を固く約束してお別れしました。

 ワレフスカが語るように、現代の演奏は、大変うまく非常にスッキリとしているが、そこに作曲家や演奏家の人生が迫ってくるということが少なくなっているように思います。何ごとも割り切り、整理し、多くの情報のもとで、経験しないことも理解しているつもりになり、失敗を恐れ、失敗を認めない現代から、真の巨匠は生まれるのでしょうか。心からの感動や、人と人の温かい触れ合いや、ぶつかり合いを回避して生き、苦しみに耐える力も薄れてきているように感じます。

 戦争中に青春を過ごした母は、「音楽にどれほど助けられたかわからない。生きる勇気をもらって生きてきた。その素晴らしさを伝えたい」と、使命感すら持って80歳になる今も音楽を志す若い方たちのための仕事を続けています。

 バロック時代の決まりごとや、音形に含まれる意味や、作曲家の研究をいくらしても、そこに共感、感動がなければ、無味乾燥な演奏になってしまいます。

 母と同年代のある保育園の園長先生の演奏終了後のごあいさつです。「みんな、心の中にきれいな花がたくさん咲いたかな?」。子どもたちは大きな声で「ハーイ!」。あるときは、「見えないものは大切なんだよ。音楽は、目に見えないね。だけど、今日は、みんなの頭の中のいろいろな線がつながったんだよ」…子供たちは不思議そうな顔です。

 幼いころに形成された情緒的なものが一生の宝になると信じておられる園長先生の見事なお話です。









(上毛新聞 2010年6月14日掲載)