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シネマテークたかさき支配人  志尾 睦子(高崎市八幡町) 



【略歴】県立女子大卒。1999年から高崎映画祭ボランティアスタッフに参加。その後、同映画祭ディレクターとなる。2004年からシネマテークたかさき支配人。



デジタル化の中で


◎将来を見据えて地道に




 映画業界の低迷が叫ばれて久しい。映画をかける小屋としてだけではもはや存続できないとばかりに、シネマコンプレックスの売店はさまざまな仕掛けで購買欲をそそるように設計され、会議や会合にシアターを貸し、貸館料でしのぎを削る作戦に出る劇場も少なくない。入場料金は割引サービスを駆使して低料金化していく一方だ。薄利多売の結果、少しでも観客動員が増え、興行収入が増え、映画製作に還元し、映画愛が深まっていくならまだいいのだが、これらの動きはかえって映画自体の価値をどんどん下げていくように思えてならない。

 時代の変化は人々の生活環境を変え、習慣を変え、感覚を変えてきた。そうした中で引き起こされた現状を打破するのはいつも新しいものである。これまでの35ミリフィルムの上映形態からデジタル化へ移行しつつあるのもそのひとつで、技術の進歩に伴うコストダウンが目的だった。そして、観客の劇場離れをつなぎとめるのに有効な手段として取りざたされたのが立体映像だった。もともと立体映像は存在していたものの、2003年ごろから深刻な興行不振が続いたハリウッドが試行錯誤し、さらなる改良に取り組んできたものだ。これらは日本でも現状打破の風穴を開ける成功をもたらした。いわずもがなのデジタル3D映画の出現であり、『アバター』の予想以上の大ヒットである。

 従来のフィルム上映でかかるコストを考えれば、デジタル化は初期投資こそかかっても将来的にはコスト削減となる。それが推し進められていた矢先の3Dのヒットで、映画業界全体がこの方向にシフトしだした。映画館からフィルムが消え、35ミリ映写機が消えていく日も遠くないかもしれない。1秒24コマで進むアナログ映写機のロマンスだとか、フィルムならではの画像の風合いなどというものを語ることすらナンセンスと言われそうな世の中になりつつある。対応できない劇場は、閉めざるを得ない状況になるかもしれない。何とも寂しく複雑な気持ちがしていた中、先日驚くべきニュースが入った。富士フイルムがフィルム3Dの展開を発表したのだ。アメリカではテクニカラーが既にこれを発表、今年アメリカで公開が予定されている20本の3D作品中14本がフィルムで公開されるというから、日本でも態勢が整えばすぐにこれらは取り入れられるのではないだろうか。これまでの映画業界の経緯を見直してみれば、このタイミングでそんな方法論とは、なんとも皮肉な感じがしてしまう。

 目新しさに照準を合わせて物ごとを進めるよりも、ゆっくりでも、じっくりと将来を見据えた変化と成長をただ地道に進めていくしかないと、気持ちを改めさせてくれる一報だった。








(上毛新聞 2010年6月22日掲載)