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前・関東森林管理局赤谷森林環境保全ふれあいセンター所長
                           田中 直哉
(千葉県船橋市)



【略歴】大阪府出身。東京農工大農学部環境保護学科卒。農水省林野庁に入り、大臣官房企画室などを経て、08年4月から10年3月まで赤谷森林環境保全センター所長。


地域や学校との連携



◎環境教育で人づくり




 あるテレビ討論番組で司会がパネリストに「これからの日本を良くしていくには、何が必要か、一言でお願いしたい」と投げかけました。その時、経済評論家の勝間和代氏は、「教育、教育、また教育」というフリップを掲げました。私はいわゆる「カツマー」ではありませんが、わが意を得たりと大変会心しました。

 明治維新で、日本が欧米列強の植民地とならず近代国家に急速に変ぼうできたのは、江戸時代の寺子屋教育などを通じて識字率がとても高く、和魂洋才、西欧文明の長所をすばやく吸収できたからと言われています。現在、発展が目覚ましい中国やインドも教育には非常に力を入れていると聞いています。

 地域協議会、自然保護団体、国が協働で「生物多様性の復元」と「持続的な地域づくり」に取り組む赤谷プロジェクトでは、豊かな自然環境を活(い)かした環境教育への取り組みを進めています。赤谷森林環境保全ふれあいセンターも、地域協議会や地元新治小学校と連携して、小学生の子供たちに総合学習の一環として、さまざまな環境教育を実施しています。これには、次世代を担う子供たちが身の回りの自然や歴史のことをよく知らないで、「持続的な地域づくり」は難しいだろうという関係者の思いも背景にありました。

 環境教育プログラムの内容は、上越国境にある三国山への遠足の際に、赤谷プロジェクトの哺乳(ほにゅう)類調査でも使用しているセンサーカメラを子供たちの手で設置してもらい、2~3カ月ほどたってから赤谷センター職員が回収、現像した後、写っているホンドテンやツキノワグマの画像をもとに「赤谷の森」に棲(す)んでいる動物や自然について解説するなどの取り組みを実施しています。実際に子供たちが山の中に入って自ら撮った写真なので、どんな撮影結果となったか興味津々のようでした。いつも目の前に見えている山に、実はいろんな生き物が暮らしていることを初めて知り、驚いたといった感想も聞くことができました。今後、地域や教育関係者からの意見も聞きながら環境教育プログラムの内容を向上させていく予定です。

 「持続的な地域づくり」のためには、やはり、子供のころから身の回りの自然や歴史に知悉(ちしつ)した人づくりをしていく必要があるのではないかと考えます。地域のことをよく知ってこそ、普段何げなく見過ごしている地域資源を地域振興の起爆剤とすることができます。1回の授業で数十人の生徒を対象に環境教育を行っていますが、これをきっかけに子供たちが身の回りの自然や歴史に興味を持ち、そのうち1人でも将来地域を支えるリーダーになってくれれば大成功だと期待しています。









(上毛新聞 2010年7月15日掲載)