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県建設業協会会長  青柳  剛(沼田市西倉内町)



【略歴】早稲田大大学院修了。前橋工業短大専任講師などを経て1981年に沼田土建入社。94年から同社社長。昨年5月、県建設業協会会長に。著書に「銀色万年筆」など。


凡事徹底



◎変わる建設産業




 時代は変わる、かといって、朝、目が覚めたら急に、何もかもが変わっているということはあり得ない。小さなことから、身の回りから、少しずつ時代は変わっていくのである。

 東京では、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、東京駅周辺など大規模開発が続いてきた。ここに来て大規模開発の波もやや落ち着いた感もあるが、大崎駅周辺の開発が進んでいる。大崎と五反田が結びついてしまうような勢いで進んできたが、日ごとに高さを増しながら全容が見え出したのが、大崎駅西口一帯である。中でも来年の竣工を目指しているのが地上25階建てのソニー新社屋である。

 都市の風景はこうして大きく変わっていくが先日面白いことに気がついた。建築家のスタイルも身なりから変わりだしたのである。ソニー新社屋の設計は日建設計の山梨設計室である。

 神保町シアタービル、新木場の木材会館など話題作を発表し続け、平均年齢34歳の若き設計集団。「日経アーキテクチャー」(2月22日号)に載った集合写真を見ると、それぞれ個性ある顔つきだが、今まで建築デザイン分野の人にとって定番だったバンドカラーのシャツを着ている人は一人しかいないのである。

 ダークグレイ系のジャッケットに細身の股上の浅いズボン、ノーネクタイの白いシャツ。いつの間にか、磯崎新氏も安藤忠雄氏も着ていた書生風建築家スタイルはもう消えつつある。

 身なりとしてのスタイルが変わったからといってそれほど変化は起きないだろうが、建築のデザインに直接影響するのは身近な、設計する道具である。これは大きく影響を与えてきた。

 例えば、T定規から平行定規、15度単位に角度を変えることができるドラフター、そして今の主流となったコンピューター技術。道具の変化と共に建築の表現も変わってきた。平行定規になった途端に水平線を描くことが容易になり、水平ラインを強調した建築がつくられ、角度を切り換えられるドラフターは斜めのラインを多用した建築デザインを生み出した。そして、コンピューター技術。楕円(だえん)はもちろん、自由自在なかたちの建築があちこちに建ちだしたのである。

 大きな流れの中で時代は変わり続ける。それでも身近な小さなことの積み重ねで変わっていく。ここに来て急激な変化を求められているのが建設産業。公共投資の量も減り、調達の仕組みも変わりだした。これから先、バンドカラーを着なくなった設計集団が東京の風景をおしゃれに変えたように業界自体も大きく変わっていきそうだが、大きく変わっていくには小さな変化が予兆のように垣間見える。取りあえずは「凡事徹底」、「挨拶励行」「整理整頓」あたりから始めれば変化が見えてくる。







(上毛新聞 2010年7月21日掲載)